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 気が付けば既に1月末。唐突ではございますが、あるネタで2011年を振り返ってみたいと思っています。それは次世代パワー半導体材料の「SiC(シリコン・カーバイド)」。私がここ数年、追いかけているテーマでもあります。

 SiCを利用したパワー半導体素子(以下、パワー素子)をインバータやコンバータ、スイッチング電源などに利用すれば、現行の Si製パワー素子と比較して、大幅な電力損失の削減が可能になります。このため、SiCは省エネの切り札として、注目を集めている材料です。

 2011年のトピックは大きく四つあったと考えています。第1に、SiC製パワー素子を手掛ける企業がさらに増えたこと。例えば、ルネサス エレクトロニクスがSiC製ショットキー・バリア・ダイオード(SBD)の製品化に踏み切りました(Tech-On!関連記事1同2))。

 海外企業の動きも活発です。2011年の年明け早々、米Cree社がSiC製MOSFETの製品化を発表しました(Tech-On!関連記事3)。また米Fairchild Semiconductor社が、SiC製パワー素子の開発を手掛けるスウェーデンのTransSiC社を買収しました(同4)。

 第2のトピックは、バイポーラ・トランジスタの性能が向上したこと。これまでSiC製トランジスタといえば、ユニポーラ素子であるMOSFETが一般的。ですが2011年は、バイポーラ・トランジスタであるBJT(bipolar junction transistor)にも注目が集まりました。以前は、注目を集めたSiC製BJTといえば、本田技術研究所らが試作したものでした(Tech-On!関連記事5)。2011年は二つの研究成果が新たに発表されました。

 一つは京都大学 准教授の須田淳氏らの研究グループが試作した、室温時の電流増幅率が257と高いBJTです(Tech-On!関連記事6)。250℃で動作させた場合でも、電流増幅率が127と高いのが特徴です。

 BJTはオン抵抗が小さいといった利点があるものの、電流制御型のためにBJTの制御回路が大きくなりやすいとされています。この弱点を補うために、電流増幅率を高める手法が研究されています。同増幅率が高まるほど、小さい電流でもBJTがスイッチング可能になり、BJT制御回路の小型化を図れるからです。京都大学の須田氏によると、実際の回路で使用する目安の電流増幅率は100。同氏ら開発したBJTは、250℃という高温動作でもこの値を超えたことになります。

 もう一つは、Fairchild Semiconductor社のBJTです(Tech-On!関連記事7)。前述のTransSiC社の技術が基になっているようです。耐圧1570V、電流増幅率117、オン抵抗2.8mΩcm2、面積4.3mm2。このBJTは、研究水準のチャンピオン・データ品ではなく、安定して作製できるものとされており、その安定性が特徴と言えます。

 BJTではありませんが、パナソニックが2011年12月に発表した、還流ダイオードを内蔵したMOSFETも興味深い素子です。ダイオードを内蔵することで、インバータ回路における部品点数が減り、同回路の低コスト化と小型化につながります。

 これまで、MOSFETが内蔵するダイオードは立ち上がり電圧が高く、実用に向かないとみられていました。しかし、パナソニックの試作品では同電圧が0.5Vと低く、従来の懸念を払拭できることが特徴です。加えて、SiC製ダイオードで一般的なSBDよりも、温度特性に優れるそうです。

SiCが鉄道に載る


 第3のトピックは、SiC製パワー素子の応用範囲が広がったこと。鉄道車両向けインバータ装置への採用が始まりました。三菱電機と東芝はそれぞれ、同インバータ装置にSiC製SBDを搭載。三菱電機は実際の車両に搭載し、試験運行を開始しています(Tech-On!関連記事8同9)。

 この他、あくまで研究開発段階ですが、ロームらがワイヤレス給電システムにSiC製パワー素子を利用したデモを披露しました(Tech-On!関連記事10)。

 第4のトピックが、SiC基板の大口径化が進んだこと。現在製品化されているパワー素子向けSiC基板は口径4インチが最大ですが、2011年は口径を大きくする取り組みが実を結び始め、6インチ品が2012年中にも登場する見通しです。これまで6インチ基板の製品化を明言していたのはSiC基板でトップ・シェアを誇るCree社だけでしたが、2011年12月に新日本製鉄が2012年にサンプル出荷を始めることを明らかにしました(Tech-On!関連記事11)。

 適用範囲が広がりつつあるとはいえ、SiC製パワー素子は、Si製パワー素子と比較してまだまだ高価です。SiC製パワー素子の低コスト化を図る上で重要なのが、同素子の製造に用いる基板です。口径が大きいほどパワー素子の生産性が向上し、コスト削減につながります。

 Cree社と新日本製鉄以外の基板メーカーも、6インチ化へ踏み切る考えです。そのため、2015年以降には、結晶欠陥の少ない基板が複数のメーカーら安定的に供給されるようになるとみられます。

 6インチ化はコスト面で、3インチを4インチへと拡大した以上のインパクトがあります。現在Si製パワー素子は、口径6~8インチのSi基板を使って製造されています。6インチのSiC基板の登場で、こうした既存装置をSiC製パワー素子の製造に流用しやすくなるからです。

 コスト面以外にも6インチ化の意義はあります。それは、ハイブリッド車や電気自動車などの電動車両や鉄道などに向けた、大きな電流容量を求める大型のSiC製パワー素子を作りやすくなること。具体的には、大きさが10mm角で、1チップで100A以上を出力できる素子です。現在使われている4インチ基板は、こうした10mm角以上のチップの量産に向かないとされています。

 と駆け足でしたが、2011年のSiC関連のニュースを振り返ってみました。お付き合いいただき、ありがとうございました。2012年も引き続き、SiCを含めたパワー半導体業界の取材を進めるつもりです。まずは、2012年2月14日、基礎から最新動向、そしてアプリケーションまで、SiC製応用のポイントを探るセミナー「SiCパワー・デバイスを知り尽くす」を開催します。興味のある方は、ぜひご参加ください(申し込みはこちら)。よろしくお願い致します。