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暗黒宇宙の謎 宇宙をあやつる暗黒の正体とは、谷口義明著、987円(税込) 、新書、268ページ、講談社ブルーバックス、2005年10月
暗黒宇宙の謎 宇宙をあやつる暗黒の正体とは、谷口義明著、987円(税込) 、新書、268ページ、講談社ブルーバックス、2005年10月
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 この宇宙はどうなっているのだろう?

 この素朴な疑問を追究していくなかで、最近分かってきた科学的推論をまとめた一書を今回は取り上げる。

 つい100年前まで、宇宙は太古の昔から存在し、ほとんど変化しないと考えられていた。かのアインシュタインも一般相対性理論を用いて宇宙を理解しようとしたとき、前提として膨張も収縮もしない、静かな宇宙を思い描いていたという。
 ところが、1917年にアインシュタイン方程式(一般相対性理論から導かれる宇宙を記述する方程式)の論文が発表された後、それまでの常識を覆す発見があった。
 1929年、宇宙が膨張していることをハッブルが発見したのである。

 膨張しているということは、昔の宇宙は小さな存在だったということになる。宇宙の原初の姿を仮定してみると、ある日ある時、宇宙は突然膨張を始めたのだ。
 膨張を始めた最初の10-43秒は、重力ですら量子的に取り扱う必要のある「量子宇宙論」の世界である。その後宇宙は、急激にふくらむ。10-36秒の頃に膨張し始めた宇宙は、エネルギーを熱に変え、灼熱の火の玉になる。

 高温の火の玉では元素の合成が可能になり、水素や重水素、ヘリウム原子核が合成される。宇宙の温度が10億度を下回る頃にこの元素合成は終わるのだが、この間がわずか3分間。元素合成が終わった後も宇宙の温度はまだ十分に高いので、完全に電離したプラズマの時代が続く。

 さらに膨張した宇宙の温度が3000K程度になると、陽子と電子が再結合して中性子原子になり、38万歳には電磁波が自由に飛び交えるようになった。1億年後には最初の星が出来始め、ガスの塊同士が合体を繰り返した結果、数億年かけて現在の銀河程度に成長する。そして、現在の宇宙年は137億歳。多様な銀河がたくさん存在する宇宙が出来上がったのである。

 余談になるが、最初宇宙が小さかったというモデルは、1946年にガモフが提案したときに「“ファイアーボール(火の玉)”宇宙モデル」と呼んでいた。ところが、宇宙は膨張も収縮もしないと主張する定常宇宙論の推進者ホイルが、「とんだ大嘘つき(ビッグバン)モデルだ」と揶揄したので、ビッグバンモデルという名前が定着した経緯があるという。
 宇宙の始まりを指しているのが「大嘘つき」モデルだなんて、夢があるんだかないんだか……。

観測可能な物質はわずか4%

 ビッグバンモデルが定説になった後も、宇宙の姿を示す新しい宇宙観測結果が得られている。
 本書のメイン・テーマである「暗黒物質」と「暗黒エネルギー」も、宇宙の観測結果から類推された概念である。

 それぞれ簡単に説明しよう。
 まず「暗黒物質」とは、まだ観察できていない、何らかの質量を持つ物質である。
 宇宙にある「見える」(電磁波で観測される)天体の質量と、星々の運動速度から計算される質量(力学質量)を比べてみると、力学質量の方が多い。比較的観測しやすい太陽系近傍では、見えている天体の質量は力学質量の約60%である。約40%が、なんらかの「見えていない物質」の質量ということになる。これを「暗黒物質(ダークマター)」と言う。

 ダークマターの正体はまだ分かっていないが、電磁波で観測されない物質なのだから、電荷もなく、電気双極子や磁気双極子モーメントも持っていないはずである。放射光を発して冷えることもないので、他の粒子とめったに衝突することもない。
 電磁波を出さない(目に見えない)し、他の粒子とめったに衝突しないとなると、なかなか観測できない物質なのだ。
 それでも何とか観測しようとした試みの一つが、ニュートリノを検出したスーパーカミオカンデであるが、ダークマターを見つける研究は、まだまだ始まったばかりとのこと。

 次に「暗黒エネルギー」とは、まだ分かっていない宇宙のエネルギーである。このエネルギーが推定されるのは、1998年に「宇宙は加速膨張している」ことが観測されたからである。宇宙が約60億歳だった頃から加速膨張が始まった。加速するためにはエネルギーがいる。それがダークエネルギーなのだ。
 ダークエネルギーも、ダークマターと同じように、その存在は間違いないが、実体を特定するのはかなり難しい。おぼろげにでもダークエネルギーの正体を見極めるためには、もっともっと精度の良い宇宙望遠鏡で何億光年も先の星を観測する必要があるという。

 宇宙の質量密度のうち、私たちが「見える」(電磁波で観測される)物質は、たったの4%であることが21世紀になって判明した。ダークマターが23%、ダークエネルギーが73%も占めているとは、驚きを通り越して、呆れるしかない。

 さて、子ども向けの物語には、科学的な背景を持つものも多い。
 人々を救うため、グスコーブドリは身を犠牲にして火山を噴火させ、鉄腕アトムはカプセルをかかえて太陽に突っこみ、怪獣ブースカは遠い星へ旅立った。
 ヒーローたちの行動には、科学的根拠がある。グスコーブドリは炭酸ガスで地球を暖めるため火山を噴火させ、逆に鉄腕アトムは太陽黒点の異状活動による気温上昇を下げるために太陽に向かった。怪獣ブースカも人類の危機を救うため遠い星へ旅立つのだが、光速に近い宇宙旅行は時計をゆっくりと進めるので、ブースカが20日で往復するつもりでも、地球上では20年の歳月が流れてしまう。

 ヒーローたちの背景にある科学も進歩する。
 ダークマター、ダークエネルギーが解明されたあと、新しいヒーローはどんな宇宙に飛び出すのだろう。

 本書を読みながら、宇宙のロマンに浸っていた少年時代を思い起こしてはいかがだろうか。

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