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ゼロのちから−−成功する非営利組織に学ぶビジネスの知恵11、Nancy Lublin著、関 美和訳、英治出版、1,890円、2011年3月
ゼロのちから−−成功する非営利組織に学ぶビジネスの知恵11、Nancy Lublin著、関 美和訳、英治出版、1,890円、2011年3月
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物理や数学の読み物と見まがう書名だが、ジャンル分けすると純粋なビジネス書である。新製品の企画や開発に悩む技術者に、ぜひ読んでほしい1冊だ。

 今や、組織に属す技術者が仕事を通じて知的欲求を満たすには、「自分が手掛けたい開発テーマに『ヒト』『モノ』『カネ』を引き付ける」というビジネス感覚が不可欠になった。社内の開発費をふんだんに費やせた時代は過去のこと。人材や資金といった社内リソースは限られている。社内の予算を獲得する既存の“ノウハウ”は、一時しのぎになるのがせいぜいで、根本的な解決にはつながらない。

 この本は、ソクラテスの「無知の知」ではないが、ヒト、モノ、カネを含めて「何もないこと」、つまり「ゼロ」であることが、逆に今のビジネスでは力を持つということを一貫して説いている。「開発はしたいが予算が付かないから」「もう少し人材を投入できれば、面白いものが作れるのに」と考える人には目からうろこの内容だ。

 著者のNancy Lublin氏は、低所得の女性に衣料品やキャリア開発プログラムを提供し、経済的な自立を支援する非営利組織(NPO)「Dress for Success」を立ち上げた人物。社会的な課題をビジネスの手法で解決する社会起業家である(社会起業家については、Tech-On!のコラム「ソーシャル・リーマンズが行く!」を参照。コラムはこちら。コラムを執筆するかなりあ社中のFacebookページはこちら)。このNPOは、米国をはじめとする5万人以上もの女性を支援してきた。この活動が評価され、Lublin氏は2007年の世界経済フォーラム(ダボス会議)で「ヤング・グローバル・リーダー」にも選出された。

 「非営利の活動を進めるNPOから、営利ビジネスを学ぶ」というテーマに違和感を抱く読者は少なくないかもしれない。世の中に多く存在する理想論だけを並べたビジネス書が頭に浮かび、「またか」と考える人もいるだろう。

 だが、本書でLublin氏が説く方法論は、具体的で示唆的だ。プロジェクトの目標(ビジョン)達成に向けて、周囲の組織や人物からコミットメントを引き出す手法、効率的な組織の動かし方、イノベーションの生み出し方などを、資金に乏しいNPO活動で自ら実践してきた事実を踏まえて語っているからである。何もない「ゼロ」から自分がやりたいことを進める環境づくりについて、今すぐにでも実践できる内容を紹介している。

 私自身、チームの目標達成に向けて「関係者の協力をどのように引き出すか」「上司からのお墨付きをいかにもらうか」には日頃から苦労している。その際に真っ先に考える戦術は「相手のメリットとデメリットを強調しつつ、こちらの欲しいものを得る方向に話を進める」である。ところが、これがなかなかうまくいかない。それは、人間はメリットやデメリットだけで動いていないからだろう。

 この本が説く方法論は、その基本方針の誤りを気付かせてくれる。例えば、「相手の気持ちを動かすこと」こそが先決だと著者は指摘する。「ありがとう」という言葉から始まる感謝の気持ちが、聞く相手を楽しくさせる「賢いおねだり」の第一歩だと。自分の活動に少しでも関心を抱いてもらえたら、感謝の気持ちを徹底して伝えることが大切だというのだ。

 自らの経験を振り返ってみれば、確かにそうである。自分が積極的に支援している「頼まれごと」には、相手からの感謝に根差す“気持ち良さ”を必ず感じている。自分の気持ちを伝えることは、ゼロからでも始められる。言われてみれば当たり前のことだが、多くの人は往々にして実践できていないのではないか。

 「組織の中で自分のやりたいことをいかに推し進めるか?」という点で知見を得たい人はもちろん、「損得にからむ交渉事は苦手」「ウィン-ウィンの関係づくりにはウソっぽさを感じる」といった人にとっても、多くのヒントが散りばめられている。単なる読み物としても十分に面白いので、技術開発に没頭しがちな技術者、あるいは自らビジネスから距離を置いている研究者も、周囲を巻き込む新しい行動の指針を発見するキッカケとして一読してみてはいかがだろうか。

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