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 現在、北京では北京モーターショーが開催されている。同モーターショーは上海モーターショーと隔年で開催されている。2011年の上海モーターショーでは中国車メーカーの電気自動車(EV)への積極的な取り組みが目立ったが、「2012年もその勢いは続くのか」という点に今、関係者の注目が集まっている。というのは、2012年は「十城千両」の最終年に当たるからである。

写真1●2011年に開催された上海モーターショー。中国メーカーがEVを多数展示し、多くの来場者でにぎわった
写真1●2011年に開催された上海モーターショー。中国メーカーがEVを多数展示し、多くの来場者でにぎわった
(撮影:日経BPクリーンテック研究所)

 十城千両とは、中国の25都市を対象に、地方政府が公用車としてEVやプラグインハイブリッド車(PHVまたはPHEV)を調達する際の費用の一部を中央政府が助成する政策である。この政策は4年計画で、2012年が最終年なのである。これに加えて2010年からは上海、北京、長春、合肥、上海、深センの6都市において、EVやPHVの個人購入客を対象に補助金(政府補助の上限はEVで6万元=約78万円)を出す施策も併せて展開し、普及を後押ししている。

 中央政府は2015年にEVとPHVの保有台数を50万台にするという意欲的な目標を掲げており、世界に先駆けて「EV大国」になることを目指している。中国メーカーが2011年の上海モーターショーに、争うようにEVやPHVを出展したのは、そのためだ。

 ただし、その熱気と裏腹に、EVの普及は思うように進んでいないのが実情である。中国からの報道によると、EVやPHVを含めた新エネルギー車の2011年の販売台数は約8000台で、そのうちEVは約5500台だった。その多くはバスやタクシーなどの業務車両と見られる。EVの乗用車は少なく、例えばEVの購入補助金がある上海市でも、個人向けに販売された累計台数はわずか10台という。

 苦境に陥る自動車メーカーもある。EVのトップランナーと目されていた比亜迪(BYD)は2011年11月、EV「e6」を発売したものの業績が振るわず、リストラを余儀なくされていると伝えられている。同社が急速に推し進める多角化に収益がついてきていないことや、市場で競合する外資系企業が低価格車を積極投入したことなどが業績悪化の主因とはいえ、米国の著名投資家が投資して話題になったころの勢いはすっかり影を潜めた。

写真2●BYDが2011年の上海モーターショーに出展したEV「e6」
写真2●BYDが2011年の上海モーターショーに出展したEV「e6」
(撮影:日経BPクリーンテック研究所)

 このように状況は楽観できるものではない。しかし、それでも中国がEVやPHVの普及に躍起になるのには理由がある。

 2011年の自動車販売台数は1850万台と、世界第2位の市場にのし上がったものの、乗用車に占める中国メーカーが開発した独自ブランド車は4割程度にすぎない。ブランド別で見ると、欧米や日本、韓国など、外資系との合弁企業が生産する車が上位を占める。中国の独自ブランド車は技術力で見劣りするとされ、市場ではまだ人気が低い。

 そこで中央政府が考えた戦略が、世界で開発競争がスタートしたばかりのEVをはじめとする新エネルギー車に軸足を移すことで、自動車先進国との技術格差を一気に埋めようというものだ。

 国家発展改革委員会などが2011年末に発表した外資系企業の対中投資ガイドラインに、その戦略の一端を見ることができる。まず、これまで出資比率に制限を設けていた新エネルギー車の基幹部品や充電所運営などを「投資奨励業種」に変更した。一方で、蓄電池の一部やバッテリーマネジメントシステム(BMS)などは、今後は外資の出資比率を50%以下に制限するという。

写真3●BYDは独ダイムラーと共同でEV「デンツァ」を開発し、巻き返しを図る。写真はダイムラー北東アジアのウルリッヒ・ウォルカー会長兼CEO
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 蓄電池はEVやPHVの性能を大きく左右する要の技術。ガイドラインの変更から読み取れるのは、新エネルギー車の開発を加速させるため、自動車メーカーや電池メーカーが所有していなかったり、開発にてこずったりしている技術を外資系企業から移転させようという狙いだ。

 最近、外資系企業との合弁によるガソリン車の製造拠点の新設許可がなかなか下りないといわれており、新エネルギー車へのシフトが鮮明になっている。

 これに呼応するかのように2012年3月末、BYDは中国向け専用EV「デンツァ」を2013年に販売すると発表した。デンツァは、BYDが技術提携している独ダイムラー系の合弁会社と共同開発するEVだ。北京モーターショーでコンセプトカーを披露する。発売済みのe6は独自に開発したが、今回はダイムラーの技術を導入し、EV市場の再開拓に乗り出す考えだ。

 BYD以外の中国車メーカーは新エネルギー車でどんな手を打ってくるのか。これが北京モーターショーの見どころの一つになる。

この記事は日本経済新聞電子版日経BPクリーンテック研究所のコラム「クリーンテック最前線」から転載したものです。