そのからくりは、どうも政府統計にあるようだ。日本人はマーケティングリサーチに公的機関の統計数字をよく利用する。しかし、中国人の収入は、統計数値とはあまり合致していない。実際には、統計の数値よりかなり可処分所得が多いのだ。
まず、副収入が多い。昼間の商売とは別に夜は別のバイトにいそしむ。夫婦は共稼ぎが当たり前だから、世帯収入は男性の稼ぎの倍と考えなくてはならない。さらに、得意先からのキックバック、政府関係者に親戚がいれば口利き料などの臨時収入があり、さらには親のスネもかじる。一人っ子政策によって、若い夫婦の二人共が一人っ子である場合が多い。こうした夫婦をそれぞれの両親、祖父母が経済的に支援しているわけだ。
これだけ収入がありながら、公共料金や基本の生活費はかなり安い。先に取り上げたようにスターバックスのような嗜好品は高いのだが、その他の交通費、光熱費は非常に安い。地下鉄は、初乗り3元(36円)、タクシーは12元(144円)、電気代は1カ月約400~500元(約6000円)、ガス代は40元(480円)、水道代は30元(360円)といったところだ。家賃は、2LDKマンションで1万元(12万円)、団地だと3000元(3.6万円)程度である。安く済ませば、昼飯は10元(120円)で十分食べることができる。
しかも中国では、ホワイトカラーは非常に昇給が早い。新卒から1年で主任、3~5年もたてば課長(マネジャー)、10年もしないうちに部長かそれ以上ということになる。30歳で課長以上になれば、月給は2万元(24万円)~3万元(36万円)になる。世帯でみれば、共稼ぎで収入はその倍。日本の世帯より収入が多かったりするのである。
出世が早い理由の一つは、文革で極端に40歳代後半から50歳代の働き手が少ないということだ。だから、中国企業の役員構成はどこもイビツで、役員は60歳以上、そうでなければ30歳代というケースが多い。こうした30歳代は80后と呼ばれ、米国など海外に留学していた海亀族(帰国組)が多い。
30歳代後半になってくると独立心旺盛な若者がどんどん独立して起業するという中国ならではの実態もある。40歳代で会社勤めというと逆に実力がないのでないのか、と疑われてしまう。どんなに小さな企業であっても「老板(ラオバン・経営者)」であれば尊敬される、という風潮があるためである。実際、老板として豊かな生活を目指す中国の若者が多い。こうした人たちが、豊かな中間層なのである。
震災後に来日する中国人の主役は、富裕層に代わりこの中間層の人たちになってきているようだ。中間層が豊かになったことに加え、富裕層の来日はすでに一巡してしまったということもあるだろう。
こうした中間層の人たちは、副収入や可処分所得が多いから豊かな生活をしている。けれど、日本で無駄遣いをしてまで面子を張ろうとは考えていない。自分たちのライフスタイルに合わせて買い物を楽しむ賢い消費者層なのだ。
豪華な高額商品を並べておけば買ってもらえる時代は終わったと考えるべきなのだろう。新たな消費の担い手である中間層の人たちを相手に日本人は何をすべきか、何を売るべきかを、過去の成功体験を捨て、一から考え直す時期にきているのかもしれない。