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産業用が市場をけん引する米国

 一方、海外の燃料電池に目を向けると、日本国内とは状況がかなり異なることに気づく。

 例えば、米国の家庭で燃料電池を導入する例はまだほとんどないが、Fedex、Google、WalMartといった米国の大企業が先行して動いている。商業施設や事業所、データセンターなどで大型の定置用燃料電池を次々に稼働させ始めた。産業用分散電源の分野から普及が始まっているのだ。

 米エネルギー省(DOE)によれば、既に全米で約700台の定置用燃料電池が設置され、燃料電池を搭載する約500台のフォークリフトが稼働している。日本では富士電機が出力100kWのリン酸型燃料電池(PAFC)を供給しているが、出荷台数は累計で約30台と産業用分散電源の市場は限定的だ。燃料電池のkW当たりコストを見ても、産業用では内外価格差があまりない一方、国内の家庭用は産業用の数倍と割高である(表1)。

表1●国内外の主な燃料電池とメーカー (作成:テクノアソシエーツ)
メーカー名燃料電池の方式出力(kW)価格(概算、万円)kW単価(万円/kW)
富士電機PAFC
100
6500
65
パナソニック、東芝などPEFC
0.7
270
386
JX日鉱日石エネルギーなどSOFC
0.7
270
386
加Ballard Power SystemsPEFC
2
80
40
米Bloom EnergySOFC
100
6400
64
海外メーカーの価格は1ドル80円で計算した

 最近の導入事例として興味深いのが、米Appleがノースカロライナ州メイデンに新設したデータセンターである(図4、図5)。このデータセンターでは、電力事業者から買う電力に加えて20MW(メガワット)のメガソーラーと4.8MWの燃料電池による電力を使用する。電力事業者以外の企業が設置する燃料電池としては全米で最大規模になるという。燃料としては、付近の廃棄物処理場から採取されるバイオガス(メタン)を活用する。これらの取り組みによって、Appleは同データセンターで消費する電力の60%を自前の再生可能エネルギーで賄う。

図4●米Appleがノースカロライナ州メイデンに開設したデータセンター
(提供:Apple)
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図5●メイデン・データセンターの見取り図
燃料電池はデータセンターの北西側に設置。メガソーラーはデータセンターの東側にある緑枠の敷地にある(提供:Apple)
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 Appleに燃料電池を供給するのは、同じシリコンバレーを拠点とする燃料電池ベンチャーの米Bloom Energyである。同社は、クラウドやビッグデータなどの需要で成長中のデータセンター市場を重要なセグメントと捉え、シェア拡大を狙っている。一方、Bloom Energyは家庭用として1kW程度のシステムを3000米ドル(24万円)以下の価格で今後5~10年の間に提供したいという。実現すれば、同社が燃料電池版のFirst Solarに変貌する可能性も出てくる。

国際競争を意識

 日本の燃料電池が国際市場で競争力を高めるには、こうした状況をにらんだ上で製品の仕様決めや低コスト化を急ぐ必要がある。

 まず機能の面でエネファームの課題だったのは、停電時などに自立運転を行えない仕様になっていたことである。ところが、東日本大震災により停電リスクや電力不足が顕在化、電力供給が途絶えた場合に自立運転ができなければ燃料電池を導入する意味がないという声が目立って増えた。メーカー側もその要望に応えつつあり、改善が急ピッチで進められている。

 低コスト化という点では、当初から販売されている固体高分子型燃料電池(PEFC)よりも、2011年10月から市場投入が始まった固体酸化物型燃料電池(SOFC)が本命になるだろう。発電効率が50%以上とPEFC(同30~40%程度)より高いこと、構造が簡単で大規模化が容易なこと、白金(Pt)などの高価な触媒材料がSOFCでは不要なことなどがその理由だ。

 九州大学で次世代燃料電池産学連携研究センター長を務める佐々木一成 主幹教授は、「SOFCであれば、国内メーカーが当面の目標とする50万円の燃料電池も十分に実現可能」と太鼓判を押す。前述のBloom Energyが商品化を進めている燃料電池もSOFCである。

 政策面では、再生可能エネルギーの「固定価格買取制度」を燃料電池にも適用するといった支援が役立つだろう。2012年7月に施行される同制度の対象は、今のところ太陽光や風力、地熱など5種だけである。欧米では燃料電池を含めたコージェネレーション(熱電併給)設備で発電した電力も固定価格買取制度の対象としている地域が多い。

 燃料電池で太陽電池と同じ轍(てつ)を踏まないためには、大量生産による規模の経済をメーカーが早期に確立できるような支援策が必要だ。少数の富裕層世帯と補助金頼みだけでは飛躍は望めない。余裕資金を持つ企業が発電事業への投資目的で燃料電池を大量購入し、エネルギー市場に参入することで市場の拡大や低コスト化が加速する。日本の燃料電池が国際的に成功するか否かのカギの一つは、事業や投資用途での促進策にあると筆者はみている。

この記事は日本経済新聞電子版日経BPクリーンテック研究所のコラム「クリーンテック最前線」から転載したものです。