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原 克氏 早稲田大学 教育学部 教授 1954年生まれ。専門は表象文化論、ドイツ文学。著書に『図説 20世紀テクノロジーと大衆文化』(柏書房)、『流線形シンドローム』(紀 伊國屋書店)など多数。
原 克氏 早稲田大学 教育学部 教授 1954年生まれ。専門は表象文化論、ドイツ文学。著書に『図説 20世紀テクノロジーと大衆文化』(柏書房)、『流線形シンドローム』(紀 伊國屋書店)など多数。
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白物家電の神話モダンライフの表象文化論、原克著、2,310円(税込)、単行本、274ページ、青土社、2012年3月
白物家電の神話モダンライフの表象文化論、原克著、2,310円(税込)、単行本、274ページ、青土社、2012年3月
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 本書の前半はおもに20世紀初頭の米国を舞台にした電気冷蔵庫の出現と発展に関するストーリーである。電気という革新的なエネルギーが徐々に社会に浸透していく様子を、冷蔵庫の進化を題材に描く。

 著者の原克氏(早稲田大学教育学部教授)は、「科学史や技術史と呼ばれる本はたくさんありますが、多くは科学の世界に閉じた研究です。私の関心は一貫して、科学と一般大衆との関わり合いにあります。人々が新しい科学や新しい製品にどのように反応し、受容して行ったのかを明らかにしてみたかったのです」と語る。

 原氏は欧米の古書市場で膨大な一般大衆向け科学雑誌を収集し、詳細に読み込んでいく。広告のコピーや写真も重要な研究資料だ。「広告には人々の欲望が凝縮されていますから」と笑う。本書にも当時の広告写真がふんだんに紹介されていて目を楽しませる。

 後半はその冷蔵庫がなぜ白い色を身にまとうようになったのかという本書の主題に移る。ここで著者は、表象文化論という知的ツールを駆使して、今日まで続く「白物家電神話」成立の謎を明らかにする。

 電気冷蔵庫が登場する前の、氷を入れて食品を保冷する“冷蔵函”は、どれも重厚な面持ちの木製キャビネットだった。表面がつるつるした白い箱は、普通に考えれば異質で拒絶されてもおかしくない。

 「同じ青い空を見ても人によって感じ方は微妙に違います。青い空は、誰かが意味を込めて作ったわけではないのに、人はそこから何らかの意味をくみ取ろうとする。ところが、人それぞれ体験や知識が異なるので、同じものを見ても違った感情を抱いてしまうのです」。20世紀初頭の米国で都市の発展とともに登場した中産階級。この階級の人々は、いつしか白い色に“モダンライフ”という意味を重ねていく。その過程を巧みに分析する表象文化論の手際が本書の読みどころだ。

 100年後の今、我々は原子力について深刻な決断を迫られている。「はたして、電力供給源を原子力エネルギーから『転換』するだけでよいのだろうか。(中略)暮らしという内部世界の便利さはそのままに、外部世界の転換だけで、はたして問題は解決するのだろうか。」(「はじめに」より)。電気の利用という20世紀のイノベーションを高い位置から俯瞰した書でもある。

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