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「微創新」から見るイノベーションの環境

 「微創新」という表現の存在は、中国にはまだ、イノベーションのための健全な環境が整っていないことと密に関係していると思われる。国家や業界ではもちろん、イノベーションの重要性を強調し、イノベーションを促進しようとしている。しかし、既存の企業や起業者においては、熾烈な競争の中で自らが失敗のリスクを負い、未知のエリアを挑戦する「余裕」がないのが実情である。中国市場ではスピードが重視され、それが事業の成否を決める大きな要因となっている。インターネット業界を例に取れば、往々にして世の中に既に存在している人気サイトをいち早くコピーして、とりあえず事業を立ち上げ、顧客を囲い込むのが最優先となりがちだ。同業他社との差別化は、その後の競争の中で「微創新」となる改善を時間をかけて積み重ねていく。それが安全なやり方と考えられている。

 この状況は、インターネット業界に限らない、どの業界もほぼ同じだ。激しい競争を勝ち抜いた企業は、イノベーションによるさらなる発展に着手し始める。一方、ある企業がイノベーションで成功すると、同時に消えていく企業も出てくる。これは、社会的には進歩していることになる。しかし、個別の企業や組織のレベルでは「イノベーションのジレンマ」という現象(イノベーションに成功した企業も、大きくなると革新性を失ってしまったり、最先端の技術開発を行ってもなかなか成功に結びつきにくくなってしまったりすること)もある。企業は必ずしもイノベーションを起こしたいとは限らず、この点で中国企業も例外ではない。

 中国の競争環境からみれば、「微創新」は一種の現実路線であり、安全かつ妥当な企業戦略でもある。問題は、国と業界がイノベーションのための健全な環境をいかに作るかにあろう。

「微創新」から見る日本への示唆

 日本では、「微創新」というような表現はないが、イノベーションという言葉は中国と同じように数多く使われていると見受けられる。特に、イノベーション特区、イノベーション戦略本部、イノベーション・センター、イノベーション推進本部、イノベーション推進室など、イノベーションでネーミングされるさまざまな組織があちこちに存在している。本当に言葉の定義の通りに、イノベーションの戦略や推進がなされているのか、大いに疑問がある。かつては、イノベーションの創出が現在のように強調されることはなかったようだが、カラオケやウォークマンなどの革新的な製品が生まれていた。今はどうか?

 イノベーションという表現は、使いすぎたり濫用されたりすると、その意味合いの重みも薄れてしまう。そういうことではないだろうか。中国と同様、言葉やネーミングといったものではなく、イノベーションのための日本ならではの健全な環境を構築することが何よりも重要ではないだろうか。