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旧フランス租界にある上海有数の繁華街・淮海中路に2012年1月オープンしたアディダスの上海旗艦店。生産は撤退したが、市場としての中国について同社は極めて重視している。
旧フランス租界にある上海有数の繁華街・淮海中路に2012年1月オープンしたアディダスの上海旗艦店。生産は撤退したが、市場としての中国について同社は極めて重視している。
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 このように、EMS/ODM業界ではいまのところ、「メード・イン・チャイナ」を放棄して、主要な生産拠点を中国から他国・地域へと本格的に移す動きは見られない。確かに、2012年8月16日には、フォックスコンがインドネシアに今後5~10年で総額100億米ドルを投じ、年産300万~1000万台規模の携帯電話の組立工場と、タブレットPCや電子書籍リーダーの生産拠点を設立することを決めたと台湾メディアが報じた。ただ、生産規模は中国に比べると小さなものにとどまっている。


 「エレクトロニクス産業が中国にとどまる背景にあるのは、改革開放以来、30余年に蓄積してきたサプライチェーンの存在だ」。こう指摘するのは、中国政府の幹部養成機関として知られる中国国家行政学院の機関誌『全球商業経典』だ。同誌は2012年8月号の巻頭で、転換期にある中国の製造業を取り上げた特集記事を掲載。「製造業でも最も早く『メード・イン・チャイナ』を放棄したのは玩具やアパレル産業だった。それはなぜか。エレクトロニクス産業に比べ、サプライチェーンが比較的単純かつ短いため、例えばミャンマーなどの移転先でも容易に構築できるためだ」と指摘した。これに対してエレクトロニクス産業については、「30余年をかけて構築してきたサプライチェーンこそ、競争力の源だ」として、中国に匹敵するサプライチェーンを構築するのが容易なことではないと強調した。


 ブランドメーカーやEMS/ODMの動きに伴い、サプライチェーンの重慶や成都への進出も着実に進んでいるようだ。『工商時報』(2012年8月16日付)によると、Quantaの湯庭傑・副総経理は同月15日、包装材、バッテリ、キーボードなど同社のサプライヤー60社が既に重慶の壁山工業パークに進出を果たしたことを明らかにした。また同社の子会社でプラスチック筐体の展運(重慶)電子が同年7月から重慶で生産を開始したと表明。サプライヤーの現地進出が進んだことで、部品供給が順調になったことに加え、同年下半期からASUSTeKと東芝が顧客に加わることにより、重慶からの出荷台数が大幅に増えるとの見通しを示している。Quanta重慶工場の生産規模などについては、当社のウェブサイト閲覧には会員登録が必要2週間無料で読める試用会員も用意)でも「ノートPCのクアンタ、サプライヤー60社が重慶進出 12年2500万台出荷見込む」と題した記事の中で詳しく伝えているので、興味のある向きは参考にされたい。


 さて、サプライチェーンの重要性はその通りなのだが、やはり気になるのは人件費をはじめとするコストの高騰を、台湾系のEMS/ODMはどのように乗り切るつもりなのかという点。これについては、台湾誌『商業周刊』(2012年5月23日号)が、フォックスコンのトップ、郭台銘董事長の考えを伝えているので、今回は最後にこれを紹介しよう。


 それによると2012年5月中旬に同誌が台北で開催した宴会に出席した郭董事長は、Appleのスティーブ・ジョブズ氏が生前、オバマ米大統領から、「米国でiPhoneを生産するには何が必要か、米国に戻ってこないのはなぜか」と問われ、「米国にはサプライチェーンがないから無理だ」と答えたというエピソードを披露。フォックスコンが「メード・イン・チャイナ」を放棄しない理由として、サプライチェーンの存在があることを挙げた。


 その上で郭氏は、「メード・イン・チャイナ」を続けていくためには、中国で造ったものを中国人が自ら消費する「地産地消」が必要になってくると指摘。これを実現するためには、EMS/ODMなど製造業者が率先して工員の賃金水準を引き上げ、中国に「中産階級」を形成することが重要になってくる、との考えを披露したという。