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空洞化のウソ——日本企業の「現地化」戦略、松島大輔著、798円(税込)、新書、256ページ、講談社、2012年7月
空洞化のウソ——日本企業の「現地化」戦略、松島大輔著、798円(税込)、新書、256ページ、講談社、2012年7月
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 このように、海外進出は決して「空洞化」ではなく良い効果を生んでいるのだが、新しい土地で事業を開始することに慎重な企業も多い。
 では、せっかくの海外進出のチャンスをつかもうとせず、国内にとどまり続けるとどうなるだろう。今のままだと、人口減少に伴う国内市場の縮小によって、日本での事業も継続できなくなる恐れがある。いわゆる「ゆでガエル企業」になってしまう、と松島氏は警告する。

 その「ゆでガエル企業」がつぶれてしまえば、日本の未来はほんとうに空洞化してしまう。そうならないために、積極的に海外ビジネスを真剣に考えていきましょう。特に「新興アジア」へ「現地化」しましょう、というのが本書の主題である。

 著者の松島氏が「新興アジア」を特に押しているのは、理由がある。
 松島氏は、通産省に入省したあと、2006年から4年近くインドに駐在し、日本企業のインド進出を支援してきた。その後、2011年9月からタイ政府の政策顧問としてバンコクに赴任し、50年に一度という大洪水被害を当事者として経験している。

 松島氏が5年近くアジアのまっただ中で生活して感じたのは、「新興アジア」の熱さである。1960年代の日本のような高度成長期の高揚感があり、ビジネスの可能性に満ちている、というのだ。

 松島氏が示す、「餡子と薄皮」理論、「日本入ってる」モデル、「三角連携」などの具体的戦略と実例は、海外進出を成功させた企業のノウハウ集そのもの。海外進出を検討している経営者や企画担当者にとって、大いに参考になる内容である。

 本書を読みながら、私(評者)は、城山三郎が1982年に書き下ろし、NHK総合テレビでドラマ化された『勇者は語らず』という作品を思い出した。
 戦後日本経済の牽引力となった自動車産業は、強大な力ゆえに海外から激しい非難の矢を浴びせられながらも、米国で現地生産を開始した。貿易摩擦に対処するために海外進出に踏み切った当時の自動車産業の状況が、かつて戦場で同じトラックに乗っていた主人公の2人を通して描かれていく。

 当時の海外進出は、決して「空洞化」と揶揄されることはなく、むしろ、日本の経済成長を支えた「勇者」として称賛されていたのである。

 閉塞感漂う日本の未来を開くには、企業自体が変わらなければならない。海外進出は「空洞化」ではなく、むしろチャンス、ととらえる視点が今こそ求められている。

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■著者紹介
浅沼ヒロシ(あさぬま・ひろし)
ブック・レビュアー。
1957年北海道生まれ。
日経ビジネス本誌、日経ビジネスオンライン連動企画「超ビジネス書レビュー」(2011年9月終了)のほか、「宝島」誌にも連載歴あり。
ブログ「晴読雨読日記」、メルマガ「ココロにしみる読書ノート」の発行人。
著書に『泣いて 笑って ホッとして…』がある。
ツイッターアカウント:http://twitter.com/syohyou