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─脳トレ以前に,この方向でいけるかもしれないという感触を得た出来事は何かあったのですか。

 小さなきっかけは,ゲームボーイアドバンス向けの「メイド イン ワリオ」というソフトウエアでした注3)。それと,宮本がDSソフトウエアの試作品として見せてくれた「nintendogs(ニンテンドッグス)」注4)。犬をかわいがるソフトウエアですね。

注3) 2003年に発売されたバラエティ・ゲーム。たくさんの非常に短い(数秒から数十秒でプレイする)ミニ・ゲームで構成されているのが特徴。

注4) 任天堂 取締役専務の宮本茂氏。「スーパーマリオ」シリーズなどの生みの親として知られる。

 メイド イン ワリオでは,ゲームの規模や複雑度にかかわらず,お客さんを楽しませる方法があるという可能性がはっきり見えました。あのゲームは,その当時(取り込むのが)難しいお客さんだった女子高校生が楽しく遊んでくれました。「ああ,これだと通じるんだ」と分かったのです。自分にとっては大きな意味を持つソフトウエアです。外部の人にこの話をするのは初めてかもしれません。

 メイド イン ワリオは,ゲーム人口の拡大という路線の下に生まれたわけではありません。「大容量の巨大ゲームはどうも肌が合わないから,少し違うことをやりたい」と言っていたチームが,比較的長い時間をかけて作ったものです。つまり,長年のビデオ・ゲーム成長の黄金法則だった「より豪華に,よりリッチに」に対して,何か違うぞと感じていた人は既にいたのです。だからこそ,「ゲーム人口の拡大」とか「5歳から95歳まで」といった具合に,明確に言葉にすることがすごく大事なのです。

─現在の任天堂は非常に良い状態です。チャレンジングな心を失いがちになるのではないですか。

 かつてゲーム・プラットフォームの中で,任天堂がメインストリームになれなかった時期がありました。そのころには,自分たちが一生懸命作ったものがお客さんやマーケットに先入観があって認めてもらえないという悔しい思いをしました。売り場でも自分たちの製品が奥まった所に置いてあるためにお客さんに届かないという苦い思いを味わった。こうした人たちが任天堂にはまだ,たくさんいます。一方で,この3年ぐらいに入ってきた人たちは調子の良い時しか知りません。本当にしんどかった時期を経験していない人が増えていくことは,少し不安です。

 しかし,多くの社員は追い風がずっと吹き続けることは絶対にないことを理解していると思っています。何より,娯楽というものは同じ成功法則が続かないマーケットですから。

(次回につづく)