カギ握る必須特許問題
今回のApple社とAndroid陣営との間の一連の訴訟の中で、Apple社の訴訟対策の重要な位置を占めているのが、標準規格必須特許(以下「必須特許」)の扱いに係わる問題だ。Apple社は必須特許を使用して製品の輸入や販売を差し止めようとするHTC社の行為を必須特許の濫用だとして強く非難している。一般に標準化団体では、標準規格を実施する上で使用が回避できない特許である必須特許については、その特許の保有者である参加者が標準化団体に自発的に自らが必須特許と見なす特許を登録し、FRAND(Fair, Reasonable And Non-discriminatory: 公平、妥当かつ非差別的な)条件でライセンスすることを宣言する決まりとなっている。この決まりが、各標準化団体が制定する知的財産権の扱いに関する規則(IPRポリシー)である。
HTC社は2011年8月にITCに提訴したとき、ADC社から取得した特許2件(米国特許番号7,672,219および7,417,944)を使用した。その際にHTC社は、Apple社製品にLTE無線通信標準技術を実装しているベースバンド・チップが搭載されている事実から、ADC社特許2件が侵害されていると主張した。この主張に対してApple社は、もしそうであるならば、当該特許2件は必須特許であり、HTC社およびADC社はそれら特許を関連標準化団体に開示して、FRAND条件でライセンスする約束をしておかなければならないはずであるにもかかわらず、それが実行されていないと指摘した上で、両社がFRAND条件でのライセンス義務を意図的に回避している、と非難している。この問題の審理は、本年6月21日にヴァージニア州東部地区連邦裁判所に移送されて、審理が続けられていた。
この必須特許の濫用の問題は、Apple社がMotorola Mobility社およびSamsung社との訴訟においても追及している大きな問題となっている。Apple社はこれを2009年10月から始まったNokia社との訴訟の中ですでに展開していたが、結論が出ないまま2011年6月の和解に至った。次稿では、Apple社・Motorola Mobility社訴訟で中心的な問題となっているこの必須特許の濫用問題について議論したい。