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 ワシントン州地裁の判事もMotorola社の差止め請求を認定すべきか否かを判断するにあたってこの判定基準に照らし合わせて、上記(1)と(2)を証明できていないとしている。まず、

 (1)回復不能な損害については、Motorola社は回復不能な損害があることを証明できていない、と結論付けた。判事はその理由を次のように述べている。Microsoft社はMotorola社必須特許群のライセンスをRAND条件で受けると約束しており、かつ、この裁判はそのライセンスの詳細を詰めるべく進行している。それ故、将来、ある時点で、両社間の合意あるいは裁判所による裁定のいずれかによって、当該Motorola社特許群のライセンス契約は現実のものとなる。そして、Microsoft社はライセンス契約に基づき侵害発生時点からライセンス料を支払うことになるので、そのライセンス契約はライセンス料金を受け取ることになるMotorola社の救済措置となる。

 (2)金銭賠償だけでは不十分かについても、Motorola社はこれを証明できていないとした。すでに述べたとおり、Motorola社の救済措置は、Motorola社必須特許群のRANDライセンス契約である。この救済措置によってMotorola社はMicrosoft社によるMotorola社必須特許群の使用をすべてカバーできる。Motorola社が同社必須特許群のRANDライセンスを約束した時点から、Motorola社は当該規格のあらゆる実施者にRANDライセンスを認める義務がある。その義務はこの裁判が開始されるずっと以前から存在する。言い換えると、この裁判期間中ずっと、問題は、両者間でもしライセンス契約が成立するならば、ではなくて、それがいつ、どのような条件で成立するかであった。それ故、Motorola社は常に当該必須特許のRANDライセンス契約をMicrosoft社に認める必要があるわけであるから、来るべきライセンス契約はMotorola社の適切な救済措置足りうると言える。

必須特許の侵害による差止め請求はまだ可能

 以上から、Motorola社はすでに二つの要件を満たしていないので、判事はMotorola社の差止め請求は認められないと判断し、Microsoft社の申し立てを認めるに至った。ただし、この判決で留意しておく必要があるのは、Motorola社の差止め請求は棄却されてはいないことである。判事は判決文に、“棄却していない”ことが分かる表現を盛り込んでいる。すなわち、今回の判決は特定の状況下での、この裁判での結果である。判事は、将来、状況が変わって、差止め救済が認められる可能性が出てきた場合に、Motorola社はそのような請求を起こすことも可能であるとも明示している。