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 技術は手段であって目的ではない、というのは当たり前に感じるかも知れません。でも、少し前までは、例えば電子回路の設計、材料の物性、ソフトウエアのプログラミング、といった専門技術は、一生とは言わないまでも、それなりに、「食べていけるスキル」でした。

 子供のころに、学研の電子ブロックで回路設計の楽しさを覚えて、回路技術を極めたいから、電気工学、電子工学に進学する学生は、たくさんいます。ある技術が好きで、その分野を極めて「手に職」をつけようとするのは、もちろん、悪いことではありません。ところが、いまや、技術だけでは食べれなくなることもある、というのは自覚するべきでしょう

 例えば、LSIの微細化が急激に進展したため、従来はハードウエアの半導体のチップ(ASIC)を設計しなければ実現できなかった機能が、汎用のCPUを使って、ソフトウエアでも実現できるようになってきています。

 例えば、携帯電話機といった製品を実現する際に、もし、ソフトウエアでも十分に性能が達成されるのであれば、ASICを設計、製造する必要はないことも多くなりました。また、汎用のCPUとカスタム品のASICの中間的な存在として、FPGAというLSIもあります。FPGAはプログラムによって、機能を変えることができる、柔軟なLSIです。

 このように、機能を実現するための選択肢は、大変広がりました。大量に製造する商品に対してはASICを設計するが、少量であればFPGAで済ませてしまうなど、たった一つの技術に精通するよりも、アプリケーションに応じて、必要な技術を選択することが重要になっています。

 つまり、技術を理解したうえで、冷静に、必要な技術を選択するスキルが重要になっているのです。また、グローバル化によって、比較的単純な技術の開発は、中国、インド、ベトナムといった海外にアウトソースされています。

 例えば、デジタル回路の設計は、今や、日本でやっても、あまりお金にならないでしょう。日本でやっても経済的に成り立つ技術は、時代によっても、ずいぶん変わるのです。

 このように、技術の全体を俯瞰して、その時代、自社の状況に応じて、適切に技術を選択していくMOTも、時代によって変わらない普遍的なスキルと言えるでしょう。

 もちろん、こういった変化は、私にとっても、他人事ではありません。私は大学での専門を物理工学からスタートして、企業では回路設計、今では、信号処理やソフトウエアに変わりました。5年後、10年後に自分が何の技術を開発しているか、想像もつきません。

 私も決して、こうした技術の変化は予想できたわけではないですが、「いま必要な技術はなんだろうか?」と考えた結果、専門を変わらざるを得なかった、というのが正直なところです。

 これから大学を選ぶ高校生や、大学に入ったばかりの新入生にとっては、技術の全体を俯瞰することは難しいでしょう。でも、スキルの中にも変わるものと変わらないものがある。日々の学びの中でも、自分の学んでいるスキルが、どれだけ普遍的なのか、頭の片隅に置いてもらえればと思います。