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11:00a.m. 「目的を少し抽象化してみよう」

 掃除機を元の姿に戻し、一息つく学生たち。Dyson社の製品に触れた後は、その背景にあるデザイン哲学に迫る講義が始まった。McCulloch氏はまず、創業者であるJames Dyson氏がサイクロン式掃除機を開発した際のエピソードを紹介し始めた。

 Dyson氏がサイクロン式掃除機のアイデアに至るキッカケは、紙パック式掃除機に抱いていた不満だった。なぜ吸引力が次第に低下していくのか。その原因を調べるために掃除機を分解した。その結果、彼が突き止めた要因は、フィルタの目詰まりである。紙パック式掃除機では、その機構上、吸い取ったゴミが掃除機内にたまると、フィルタの目詰まりが発生しやすくなるのだ。

 その問題の解決策をDyson氏は散歩中に発見した。ある製材所の前を通りかかったときのことだ。木くずを吸引・分離する機械が目に留まる。この機械の空気と木片を分離する仕組みと同じように、掃除機の内部でも空気とゴミを分離すれば、目詰まりの問題を解決できると考えたのである。

 その機械が分離に採用していた機構がサイクロン構造だった。同氏は早速段ボールなどで試作品を作製し、空気とゴミを分離するという狙い通りの機能が実現できることを確かめた。それが、サイクロン式掃除機の製品化につながる。その後の成功は周知の事実である。

かつてDyson氏が作製したサイクロン式掃除機の試作品
かつてDyson氏が作製したサイクロン式掃除機の試作品

 このエピソードでMcCulloch氏が挙げたポイントは、吸引力の低下という紙パック式掃除機が抱えていた問題を掃除機とは全く異なる他の産業分野で使われていた技術で解決したということだ。問題を解決するために、既存の技術を改良するのではなく、本来どうあるべきかという原点に立ち返って解決策を導き出すアプローチである。これこそが、デザインエンジニアに求められる素養の1つというわけだ。