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試作・評価を何度も繰り返す

 次にMcCulloch氏が披露した事例は、「Air Multiplier」である。“羽根のない扇風機”として話題を呼んだ製品だ。(Tech-On!の関連記事「ファンがない?---翼の揚力の原理で送風量を確保するDysonの新型扇風機」)

 長きにわたって扇風機の基本的なデザインが変わらなかった理由を、同氏は「モータによって回転する大きな羽根が付いているモノ」という扇風機の定義に対する固定観念だと指摘する。大きな羽根を用いる限り、羽根を支える台座や羽根を覆うカバーは不可欠であり、基本的なデザインを変えようがない。

 固定観念にしばられた分野で斬新なアイデアを考案するには、対象となるモノやコトの定義をもう少し抽象化することが効果的であるとMcCulloch氏は説く。

 では扇風機の場合、抽象化した定義とは何か。

 それは、「人を涼しくさせるために空気の流れを生み出すモノ」である。抽象化によって、扇風機に羽根を使う必要はなく、空気の流れを生み出せればその手段は何でも構わないと発想を転換できる。その結果、生まれた製品がAir Multiplierだ。台座内に設置したモータとインペラで空気を吸引し、それを高速で吹き出すことによって周囲の空気を巻き込み、強力な風量を確保するという独特の構造を実現した。

扇風機に対する固定観念(左)と抽象化した定義(右)
扇風機に対する固定観念(左)と抽象化した定義(右)
扇風機に対する固定観念(左)と抽象化した定義(右)

 サイクロン式掃除機や羽根のない扇風機といった新しいアイデアを製品化する際にDyson社が特に重視しているのは、試作品の作製と評価を短期間に何度も繰り返すことだ。例えば、サイクロン式掃除機の開発エピソードで出てきた段ボールの試作品は、完成度という点では物足りなかったかもしれないが、初期段階で開発を継続するかどうかについて判断する材料としては十分だった。

 その試作過程を何度か繰り返し、さまざまな人から試作品への意見や評価を聞くことで、問題を早期に低コストで解決できるとMcCulloch氏は語る。ただ、この発想の転換による新しいアイデアのひらめきと、試作の繰り返しは、どんなに言葉を尽くして説明しても、なかなか実感できるものではない。では、どう具現化するか。学生たちは、昼休みを挟んで、それを体感することになる。