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 テクノ・システム・リサーチ(TSR)は、エレクトロニクスと技術に特化した市場調査会社であり、産業界へのインタビューに基づく情報収集や分析、専門性の高いレポートに定評がある。本連載では、同社の複数のアナリストに、スマートフォンやカメラ、センサといった、それぞれの専門分野に関するレポートを寄稿してもらう。第1回はスマートフォンおよびそれに搭載されるチップセットの市場について、同社 アシスタントディレクターの丹羽健氏が分析する。(日経BP半導体リサーチ)

 TSRでは、2012年の携帯電話機(フィーチャーフォンとスマートフォンの合計)の世界出荷台数を18億3000万台と推計している。2012年は欧州で携帯電話機の需要が減退したことに加え、南米やインドなど一部の新興国で市場が低調だったことから、世界出荷台数は前年比で1%減少した。2013年以降も高い成長は見込みにくく、既に成熟市場となっている。

 ただし、スマートフォンに限れば市場は急速に拡大しており、2014年まで数量ベースで年率20%以上の成長が見込まれる。市場規模は2012年時点で7億1000万台に達しており、2013年には9億5900万台に達する見通しだ。2013年にはスマートフォンがフィーチャーフォンの世界出荷台数を上回り、2018年には携帯電話機の全出荷台数の76%をスマートフォンが占めるだろう(図1)。

図1●携帯電話機の世界出荷台数とスマートフォン比率の予測
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 スマートフォン市場は先進国では全般に成熟しつつあるが、代わって中国が市場成長を牽引する。2013年後半からは、東南アジアや南米でもスマートフォン需要の拡大が見込まれる。

200米ドル以下の低価格スマホが大きく伸びる

 スマートフォン市場を端末の価格帯別にみると、今後、低価格セグメントが大きく伸びる見通しである。2011年には「High End」(端末価格400米ドル以上)が全出荷台数の53%を占め、「Mid-Low」(同200~100米ドル)と「Low End」(同100米ドル以下)の比率は両者合計で約10%に過ぎなかった。これに対し2013年には、High Endの比率が33%にまで落ち込み、200米ドル以下の端末の比率が34%にまで拡大する見通しである。2018年には、スマートフォン全出荷台数の59%を200米ドル以下の端末が占めると我々は予想している(図2)。

図2●価格帯別のスマートフォン出荷台数の動向予測
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 スマートフォンの端末価格を左右する要素としては、アプリケーション・プロセサと通信モデム(ベースバンドLSI)の他、ディスプレイやカメラ、メモリ、筐体などを挙げることができる。一般に、「High End」や「Mid-Low」のスマートフォンでは、販売価格に占めるこれらの部品コスト(BOMコスト)の比率が50%程度であり、端末メーカーの利幅は大きい。対して、販売価格が200米ドル以下になるとBOMコストの比率が70~75%程度に達するため、端末メーカーにとっては儲かりにくい商品となってしまう。

 「High End」「Mid-High」「Mid-Low」「Low End」という四つのセグメントに関して、主な市場や端末メーカー、チップセット(プラットフォーム)ベンダーを表1に示した。各セグメントの特徴を詳しくみてみよう。

表1●スマートフォンの各価格セグメントの概要
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 「High End」(端末価格400米ドル以上)は、日本や韓国、欧米の大手通信事業者が扱う端末であり、補助金付きの長期契約がベースになる。このセグメントではLTEの需要が高い。アプリケーション・プロセサのベンダーをみると、米Qualcomm社や米Apple社、韓国Samsung Electronics社のシェアが高い。その他、中国Huawei社傘下のHiSilicon Technologies(HiSilicon)社や、米Intel社、米Nvidia社などのプレーヤーがいる。Qualcomm社を除くと、自社(グループ)端末向けがメインであるプレーヤー(Apple社、HiSilicon社、Samsung社)と、スマートフォン向けチップセット市場でのシェアが非常に小さいプレーヤー(Nvidia社、Intel社)に分かれる。Qualcomm社については、LTEモデムの競争力がこのセグメントにおける同社の強さを支えている。

 「Mid-High」(端末価格400~200米ドル)は、日本や韓国、米国のローエンド・モデル、欧州の主流モデル、中国や新興国のハイエンド・モデルに当たる。3G通信に対応し、マルチコアCPUを搭載する場合が多い。ここもQualcomm社が非常に強いセグメントだったが、他社が続々と市場投入しており、今後競争が激化しそうだ。例えば、ルネサス モバイルやNvidia社、Samsung社などがLTE対応モデムとアプリケーション・プロセサの統合型チップを製品化しており、台湾MediaTek社や米Marvell Technology社、米Broadcom社などはクアッドコアの3G対応チップを製品化している。このセグメントは、長期的には「Mid-Low」セグメントとの差異化が難しくなるだろう。

 「Mid-Low」(端末価格200~100米ドル)は、欧州や中国の主流モデル、および新興国のハイエンド・モデルである。このセグメントは2012年以降、市場が急成長している。チップセットの仕様は、3Gおよびデュアルコア対応が主流である。チップセットの主要ベンダーはMediaTek社とQualcomm社であり、Broadcom社やMarvell社、中国Spreadtrum Communications社も幾分かのシェアを獲得している。

 「Low End」(端末価格100米ドル以下)は、中国の普及モデルおよび新興国の主流モデル。現状では、中国ブランドの端末がこのセグメントのメイン・プレーヤーである。この価格帯に進出できるグローバルブランド・メーカーは数社に限られる。チップセットのベンダーはMediaTek社とSpreadtrum社であり、今後はRDA Microelectronics社が参入してくる。MediaTek社やSpreadtrum社と中国市場の覇権を競うQualcomm社は、チップセットの価格が障壁となってこのセグメントにはほとんど参入できていない。

新たなモバイルOSが続々と登場

 スマートフォン市場をソフトウエア基盤(OS)からみると、Androidによる市場寡占化が大きな流れだ。2012年までは20%近くを維持してきたiOSのシェアは、2013年を境に減少に転じるだろう。

 Androidによる市場寡占化に対抗する形で、一部の通信事業者や端末メーカーが新たなOSを擁立する動きを見せ始めている(図3)。2013年に入って、TizenやFirefox、Ubuntu、Sailfishといった新OSが製品化され始めた。この中では、Firefoxが最も有力との見方が強い。成長性の高い低価格帯の端末をカバーしており、多くの通信事業者から支持を得ているからだ。ただしこれらの新OSはいずれも、利用可能なアプリケーション・ソフトウエア(アプリ)などを充実させる必要があり、普及には時間がかかりそうだ。この他、Windows PhoneやBlackberry、Bada、Symbianなどがスマートフォンに採用されているものの、いずれもシェアは小さい。

図3●スマートフォンに搭載されるモバイルOSに関する予測
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中国メーカーではSpreadtrum社やRDA社などに勢い