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 「アンテナの性能」を示す指標は幾つかありますが、最も代表的なものは(既に何度か出てきている)「利得(ゲイン;Gain)」です。ここはよく誤解されているところなのですが、アンテナの「利得」とは「電波をどれだけ効率よく拾うことができるか」を示す値ではなく、「どれだけ特定方向に絞って電波を放射できるか(あるいは特定方向からの電波に絞って受信できるか)」を示す値です。例えるならば、騒音のなかで遠距離の会話を行うのに必要なのは「感度の良い耳」ではなく「メガホンや集音器」である、ということです。「耳の感度」だけを上げても(例えば補聴器を付けてボリュームを目一杯に上げても)、目的の声ばかりか周囲の騒音も同じだけ大きく聞こえるので、結局元の木阿弥です。これを専門的には「信号/雑音比(SNR:Signal / Noise Ratio)が同じ」と表現します。

 前述したように、自由空間に置いたアンテナから放射された電波は360度全方位に対し広がりながら放射されます。しかし距離を置いた1:1の通信であれば、横や後ろに放射された電波は全部無駄になってしまいます。同様に、受信側では横や後ろから来るのはノイズでしかなく、見当違いの方向から電波を受けることもやっぱり無駄です。360度全方位に対して放射する・あるいは全方位から受信する電波のうち、有意なエネルギーはそのごく一部に過ぎず、他はすべて無駄になってしまうわけです。

図1 アンテナ利得=0dBi の場合
図1 アンテナ利得=0dBi の場合

 送信機から見て受信機のいる方向が特定できるならば、その方向にエネルギーを集中することで送信パワーを上げたのと同じ効果を得ることができます。例えば半球状の放射特性を持つアンテナならば、球状の放射特性アンテナに対し2倍のパワーを出したのと同じ効果が得られます。この場合「アンテナの利得が2倍」であると解釈することができ、一般にはそれをデシベルに換算した「アンテナ利得3dBi」として表記します。dBの後に付く「i」は全方位性=isotropicのiを意味し、全方位性アンテナに対するエネルギーの集中度合いを示しています。送信側と受信側に3dBi のアンテナを付ければ、送信側で2倍・受信側で2倍なので、送信パワーを4倍に上げたことに相当します。

図2 アンテナ利得=3dBi の場合
図2 アンテナ利得=3dBi の場合

 エネルギーの集中度合いを増せば、放射・受信するエネルギーに対する有意エネルギーの比率をさらに上げてゆくことができます。これが「高利得アンテナ」の働きであり、すなわち「高利得アンテナ」とは「高指向性アンテナ」を意味しているのです。図3は図2よりさらに放射角を半分に絞った場合、すなわち3dBiの2倍で6dBiの利得を持つアンテナの原理図です。この場合、システムとしての総利得は6dB+6dBで12dB相当、送信パワーを16倍に上げたのと同じ効果が得られるわけです。

図3 アンテナ利得=6dBiの場合
図3 アンテナ利得=6dBiの場合

 この調子で送信側・受信側に10dBiのアンテナを付ければ、それだけで出力を100倍にしたのと同じ効果が得られます。しかしアンテナ利得を上げるということはアンテナ指向性を上げるということであり、送信側・受信側がお互いに「相手がどこにいるか」を正しく把握し、その方向にアンテナを向けなければ通信が成立しなくなるということでもあります。そしてアンテナ指向性というのは1種類ではありません。同じ利得(dBi)のアンテナでも、その指向性が上下左右にどう広がっているかでさまざまな種類があり、用途に応じて使い分けられています。

 というところで、次回はアンテナの種類とその特性・用途についてご紹介したいと思います。

佐々木 勇治(ささき ゆうじ)サイレックス・テクノロジー
New Technology Division
General Manager
 1988年に日本コンピュータ工業(現、サイレックス・テクノロジー)に入社。当時、インターネットの普及とともに急成長したOA機器向け組込み用途のTCP/IPプロトコルスタック技術開発における草分け的な存在。現在はサイレックス・テクノロジーの米国オレンジカウンティを拠点に、無線LANをはじめとする機器間ネットワークに関する先端分野の研究開発を行うとともに、同社北米拠点の医療機器、産業機器分野の顧客への無線LAN化ビジネスを推進している。本連載は筆者がサイレックス・テクノロジーのホームページで連載している「Wireless・のおと」を加筆・修正して再掲したものである。