最先端ではなく“最適な”技術
MediaTek社などは、技術で世界の大手の上を行っているというわけではない。言い方を変えれば、最先端の技術を提供できないというのも事実だ。しかし、ユーザーの視点で“最適な”技術を提供している。この「最先端ではなく“最適な”技術」を提供するということも、企業が成功を収める上で重要なポイントの1つではないかと筆者は考えている。
その代表事例の1つが、MediaTek社の「ターンキー・ソリューション」だ。これは、携帯電話/スマホ向けのLSIチップセット・ソリューションで、技術力がまだ低い中国市場に対して、チップセット、推奨部品リストなどを含むトータル・ソリューションを提供しようというものだ。
MediaTek社は当初からこうしたターンキー・ソリューションの展開を狙っていたわけではない。同社が携帯電話/スマホ向けLSIチップセットの市場に参入しようとしていたころ、大手携帯電話メーカーと大手チップメーカーの間には既に強いパイプが出来上がっていた。そのため、実力や知名度が弱いMediaTek社にとって、既存市場に入るのは相当困難だった。
そこで、中国市場を熟知するMediaTek社が目を向けたのが、大手メーカーではなく中小メーカーだった。世界最大の電子部品/製品の集積地である中国華南エリアに多くのリソースを投入した同社は、「電子部品/製品メーカーは何がほしいのか。何が必要なのか」をいち早く理解した。そして、そこから生まれたのがターンキー・ソリューションだ。MediaTek社にとっては仕方がない選択だったのかもしれない。だが、それがかえって新たな顧客の発掘につながった。
一方、BYD社の2次電池では、生産ラインに最先端ではなく“最適な”技術を適用している。すなわち、同生産ラインでは、高価で最先端の設備が必要な全自動を追求するのではなく、半自動にとどめつつ廉価で豊富な労働力を活用することで、低コストで全自動ラインに匹敵する品質を確保可能な生産ラインの構築を狙った。その効果で同社の2次電池の製造コストは大幅に減り、BYDならではの強い価格競争力の実現に貢献した。
重要なのは、自己満足ではなく、ユーザーを満足させること。そして、それを成し得てきたものは必ずしも最先端技術ではない。実用的で安い最適な技術だ。加えて、参入するタイミングも重要だ。リスクを負って導入期から参入するよりも、適切なタイミングで市場が成熟期に入るころに参入することも1つの選択肢といえる。これについては、本コラムの「リバース・イノベーション2.0」で取り上げているので、ここでは割愛する。