経営の思考回路の違い
以上をまとめると、中国の成功企業の共通点や中国流イノベーションの本質は、次のような点にあるのではないかと筆者は考えている。
市場:完全市場駆動、マス市場をターゲットとする
技術:技術重視、市場に最も合う技術を低コストで提供
参入タイミング:市場が成熟期に入る時に一気に参入
それと比べて、中星微電子に代表されるような企業のパターンは、次のようになる。
市場:技術ハードルが高いニッチな市場
技術:技術駆動、最先端技術を追求
参入タイミング:市場が立ち上がる導入期
では、こうした差はどこから来るのか--。その根本的な原因は、経営の思考回路の違いにあると筆者は考えている。。
中国の成功企業の創業者には、海外から帰国したエリートは非常に少ない。Huawei Technologies社、BYD社、Lenovo社、Tencent Holdings社、小米などの創業者は、ほとんどが帰国のエリートではない。シリコンバレーで代表される先進技術やビジネスモデルを強みにできるわけではないが、中国社会や中国文化の特徴と実情を洞察する能力に長け、中国市場を熟知している。そして、中国市場では何が求められ、どのぐらいの価格なら受け入れられるかなど、エリートよりも深く理解できる(「『毛沢東思想』とイノベーション」参照)。
帰国のエリートが学んできた欧米の経営理念や手法、海外の技術などは、理論的に正しい「王道」だ。しかし、そのまま中国で使うと、必ずしも中国の実情に適用するわけではない。中国の現実に適応させることを重視した中国流のイノベーション、いわゆる「近道」は、その成功の源泉といえる。
「近道」は、後発者として非常に有効な成功方策だ。だが、追い付いた後には「近道」はない。そこで求められるのは「王道」への転身だ。中星微電子の「王道」は、成長のスピードが遅いが、長い目で見れば持続成長の可能性が高いともいえる。中国でも将来的には、「王道」で走る企業が多くなると予想できる。