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 早いもので入社して20余年がたちました。私が就職したのはバブルがはじけるかはじけないかのころで、日本のエレクトロニクス関連企業の前途は洋々たるものでした。まだ、スマートフォン(スマホ)どころか、デジタル・テレビもインターネットもなかった時代です。なすべきこと、作るべき製品は山のようにありました。

 翻って今日の市場はどうでしょうか。NHKの悲願だったハイビジョン放送は(デジタル方式にはなりましたが)家庭に行き渡り、Bill Gates氏が語った「information at your fingertips(指先に情報を)」はスマホの使い勝手そのものです。4K、8Kにウェアラブルと、「次」を目指す動きは盛んですが、どうにも二匹目のどじょうの感を拭えません。これまで消費者を魅了してやまなかった夢のエレクトロニクス製品は、あらかた出尽くしてしまったかにも見えます。

 イノベーションのコンサルタントで株式会社盛之助の社長を務める川口盛之助氏は、このような状況を、技術の成熟という概念で読み解きます。様々な技術にもそれぞれに固有のライフサイクルがあり、萌芽期から成長期、そして成熟期という段階を経て発展していくという発想です。萌芽期には数々の技術革新が日々生まれますが、その頻度は成長期、そして成熟期に向かうに連れて減っていきます。

 既に土木や建築などの技術は成熟の域に達し、化学合成の分野でも新たなエンジニアリング・プラスチックや低分子型の新規大型医薬品は現れにくく、もはや枯渇状態に近いといいます。もちろん成熟した分野に革新的な技術が全く出現しないわけではなく、例えばシェールガスの実用化など広範囲に影響を及ぼす変化が訪れる場合がありますが、その実用化には何十年もの努力を要するなど、ハードルはますます高くなるわけです。

 エレクトロニクス産業もこの領域に入りつつあるのでしょうか。川口氏の指摘は微妙に違います。確かに、電子技術自体で生み出す製品はスマートフォンにまで行き着いて踊り場に入りつつある。ただし、今後は全く別の方向に技術開発がシフトするというのです。

 それが「電装化」の概念です。電装化とは、電子機器が世の中のあらゆるものに取り付いて、事象を隈なく電子化し、情報として処理していくことを指します。そして、情報の世界で加わった付加価値を実世界にフィードバックし、世界をより良くしていくわけです。いわゆる拡張現実(AR)の発想を最大限広げた概念と言えます。

 大きく二つの方向で電装化は進むと川口氏は予測します。一つが、前述の建築や土木などの成熟技術の分野への進出。それを具現化したのが、電力を融通するスマートシティやインフラを監視するセンサネットなどと言えます。もう一つは、現在萌芽期にあり、日進月歩でイノベーションが生まれている技術の分野。生命科学や脳科学の分野がそれに当たります。医療やヘルスケアといった応用からさらに進んで、脳インタフェース(BMI:brain machine interface)や電子機器との融合といった「人体の電装化」により、人は超人と化していくとの見立てです。

 ここで披露した川口氏の論は、年末に発行される同氏の著作「メガトレンド 2014-2023」のほんの一端です。全産業分野にわたって、あり得る未来を大胆に描き出す同書は、非常に高額なためお気軽に手にしてはいただけないのですが、ここしばらくその編集に携わってきた筆者は、価格に見合うだけの内容に仕上がったと自負しております。日経エレクトロニクスの誌面でも概要をご紹介したいと思っておりますので、ご期待ください。

 未来が予想通りになるとは限りません。ただし、電子機器メーカーがこれらの方向に歩を進めているのは確かに見えます。少なくとも、HDTVやスマホに結実したここ何十年かの技術進化は成熟に向かい、業界が新たな成長の芽を探しているのは間違いなさそうです。同書の作業を経て、電子業界が転機にあるのであれば、日経エレクトロニクスという媒体の在り方も変わっていくべきかもしれないとの意を新たにしました。今後の誌面づくりをどうしていくのか、しばらく頭を悩ませたいと思います。