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ムーアの法則がもたらすニヒリズム

 ハードウエアは4~5年で取り替えた方がいい。こういう考えが支配的な世界では、良い物を長く使おうとするのは「遅れた技術思想」になりかねない。だがそれは、ときに人心を荒廃させる。

 顧客の要請に応えて、25年も壊れない製品をつくった。価格は、それほど高くせずに済んだ。顧客も喜んでくれた。ところがダンピングと非難されてしまう。それならと、コストを気にせずに高品質を追求した。そうしたら今度は、市場が変化していて、そんな製品は過剰品質だと非難される。「やってられねーよ」。技術者たちは、ふてくされる。

 思えばこれは、いつものことである。新技術が旧製品を魅力のないものにする──人類史のほとんど全過程で、それは起こってきたはずだ。そしてそれは、人を幸せにするとは限らない。それでも技術は進歩する。そして人は、進歩した技術を使わざるを得ない。ある種の無力感、あるいは一種のニヒリズムが忍び寄ってくる。そこにどう折り合いをつけるか。一般解は、おそらくない。

 電子情報通信分野に限れば、問題の一つは半導体集積回路の進歩の速度だろう。3年で4倍、10年で100倍というムーアの法則は、人間の寿命に比べると、あまりに速い。ドッグイヤーと呼ばれるゆえんである。

 近年、少し速度が遅くなる様子が見え隠れする。従来どおりの微細化を進めることが、技術・経済の両面で難しくなる。ムーアの法則が維持できなくなるかもしれない。そこで別の方策の模索が続く。この別の道を半導体業界では「More Than Moore」と呼び習わしている。