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 前回のコラムでは、生体情報モニタにおけるワイヤレス化の発想が日本にあったことと、現時点での市場の動向に関して報告した。引き続き、我が国では医療機器・健康機器などのモニタリング分野において現況がどうなっているのかを俯瞰してみたい。

生体情報のワイヤレス化の実情

 まずは、関連分野での最近の開発歴の中から、幾つか目立ったトピックスを紹介しよう。

 情報通信研究機構(NICT)では、2006年ごろからBAN(Body Area Network、生体信号領域通信網)と称する生体信号のワイヤレス化の開発を開始した。2.4GHz帯の電波を利用して、被験者の胸部に装着可能な小型送信機から、心電図、3軸加速度、体表温度などを送信する方式だ。20gにも満たない送信機から複数パラメータを送受信可能としたことが開発の成果である。

 2010年に産業技術総合研究所が開発した装置がモバイル脳波計と呼ばれるものだ。本来、脳波は最大でも100μV程度の微弱な起電力しかなく、誘導のためのリード線が長いと雑音の影響を受けやすい。このモバイル脳波計は、リード線を数10cmだけで送信機につなげているため、耐雑音対策にもメリットが発揮される。

 これらのワイヤレス技術の根幹は、「小型、軽量、省電力化」を最大の特徴としており、上記の両プロジェクトには、専門のベンチャー企業が協力した。ハード、ソフトを含めたワイヤレス化の基本技術は2.4GHzの産業科学医療用(IMS)バンドが有利であり、この領域での生体情報モニタや健康機器関連分野への適用に関しては、我が国の技術陣が世界に先行して試みている。

プレイ・ゾーンの拡大が期待される製品

 下写真のホルタ心電計「CarPod」はワイヤレス技術を取り入れたメディリンク製の製品で、患者の胸に装着できるよう小型化および軽量化を実現している。わずか17gの送信機で、心電図2チャネル・3軸加速度・体表温の複数パラメータ送信を可能とした。受信機能を備えた小型の本体はマイクロSDメモリー・カードによるメモリー機能を有しており、48時間の心電図メモリーが可能だ。

ホルタ
ワイヤレス・ホルタ心電計「CarPod」の本体(左)送信機(右)

 通常のホルタ心電計は、2または3チャネルの心電図測定を行う。ただし、CarPodは、1チャネルのみの測定もでき、このケースではリード線が不要となり、完全コードレス化が実現する。さらには、本体での受信の他、小型メモリー・チップほどの受信機を使えば、パソコンなどで心電図や患者の動作状況のモニタリングが可能だ。

 また、スマートフォンなどでの直接受信もできるようになるため、心電図の受信状況などがどこにいても確認できる。

 この製品と同じ方式を利用した送受信機は、心電図モニタなどの製品にも波及している。数十年も前のワイヤレス化の発想の原点が患者の電気的安全性の確保や拘束感からの解放であったことを述べた。前者に関しては、電池を使用している限り「当たり前」だが、後者の利点に関しては、もう一歩という状況にあった。だが、現在の製品は患者に装着感を忘れさせるほどで、本来の理想に近付きつつある。

 ここまで来ると、ワイヤレス化の流れが、生体情報モニタの活躍範囲を変化させる可能性が出てきた。もはや、医療の現場だけでなく、介護や健康管理のための在宅での利用へと適用分野の広がりが期待されている。