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 あるいは、この意外な事実を知って、驚く方が多いかもしれない。ワイヤレスでにぎわっているこの世の中だが、医療機器の世界では、40年近くも前からこの技術の先取りが始まっていた。しかも、それを先導したのは我が国の医療機器メーカーたちなのだ。

 今回は、生体情報モニタなどのワイヤレス化に向けた動きのオリジナリティーが我が国にあったことを回顧しながら、その現状を分析してみたい。

生体情報伝達のワイヤレス化の発想

 我が国では、生体情報収集の分野で、ワイヤレス化によるモニタリングの開発が盛んに行われてきた。

 実は、40年も前に生体情報モニタのワイヤレス化の発想を発表したのは日本であり、1976年に世界最初のワイヤレス生体情報モニタが商品化された。スマートフォンや地デジもない時代、しかも、パソコンさえ存在しないアナログ技術中心の世の中だった。

 以下に示したのは、日本光電工業の社史から抜粋した同社の製品年表の一部だ。写真の1号機が、世界で初めてのワイヤレスタイプの生体情報モニタである。*『電子技術で病魔に挑戦』-日本光電50年のあゆみ、2003年7月刊

宮田喜一郎
「世界初」のワイヤレス式生体情報モニタを伝える社史

 その頃はワイヤレスでなく“テレメータ”という呼称だったことを思い出し、時代の変遷が実感できる。ICU-6000という型名を冠したタイプで、生体情報モニタの“テレメータ化”は筆者の発想によるものだった。

 発想の原点は、患者へのリーク電流を最小限にする電気的安全性の確保にあった。しかも、リード線をなくす、あるいは最小限に短くすることによって、患者や操作者の自由度を広げるメリットを狙った。

 ついでながら、「患者監視装置」という名称になっているが、こちらも20世紀の遺物と化した。「患者さんの人権を無視した名称」という批判があったことによる。このことについては、いずれ稿を改めて言及したい。

現在でもワイヤレスが主体の日本市場

 生体情報モニタとの名称で呼ばれるようになっても、その主流はワイヤレスとなっている。生体情報モニタに関して考察する限り、ICTの時代になったからという理由でない。なぜなら、上記の歴史がその真実を物語っている。

 以下に示すグラフは、最新の日本における生体情報モニタ(それ以来、ベッドサイドモニタという名が通っている)のワイヤレスと有線の割合が示されている。現在も、この分野では、ワイヤレスの割合が85~90%となっており、有線による生体情報モニタが希少な存在であることがわかる。

宮田喜一郎
最近の生体情報モニタの無線(赤色)・有線(青色)台数比較(矢野経済研究所調べ)

 なぜ、我が国ではワイヤレスがこれほど優位な状態を継続しているのか。理由は至極単純で、市場が受け入れているからだ。

 ワイヤレスの欠点だってある。たとえば、送信機の電池交換が必要だし、電波の受信が100%完璧ということはありえず、ときとして受信不能による瞬断も起こりうる。

 だが、こうした弱点にも増して、使いやすさや有用性がより高いことだろう。そうしたメリットが小さなデメリットを凌駕している、と考えられる。

 患者情報を提供する代表格の生体情報モニタのワイヤレス化は、ICTの時代を迎えてもさらに加速する方向性を秘めている。