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出版社と印刷会社の関係に似るファブレスとファウンドリの分業

 設計と製造の分業は珍しくない。建設業、ファッション産業、出版業などにおいて、設計と製造は早くから分業している。既に触れたように、本や雑誌の設計(編集)は出版社が担い、製造(印刷・造本)は印刷会社が分担する。この分業は、半導体における設計-製造関係とよく似ている(図1)。

図1 LSI製造工程と本づくりの対比
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 出版社と印刷会社の分業で重要なのは、設計と製造のコスト構造の違いである。本や雑誌の編集者(=設計者)の最大の仕事は、「読者が何を読みたがっているか」を探り当てることだ。この仕事に大きな装置は要らない。

 印刷(=本や雑誌の製造)は装置産業である。大部数の印刷には輪転機が必要だ。そのための投資金額は大きい。となれば、印刷における最大のコスト要因は装置(印刷機)の減価償却である。言い換えれば資本コストである。もう一つ言い換えれば時間コストである。大金を投資して買った装置が遊んでいる時間、これこそが最大のコストということになる。装置が動いていても遊んでいても、減価償却コストは容赦なく発生し続けるからだ。

 ここから出版社と印刷会社の分業が導かれる。出版社は内容や読者対象ごとに小さく分かれ、印刷は印刷会社に外注する。印刷会社は巨大化し、群小多数の出版社から印刷を受注する。多数の出版社からの注文によって、印刷機が遊んでいる時間を極小化する。

 出版社、すなわちファブレスの設計会社は、印刷機(製造装置)を持つ必要がなくなる。これは減価償却負担が軽くなることを意味する。半導体の場合も、ファウンドリを利用するチップ設計者はファブレスになり、製造装置への投資負担を免れる。そうなれば狭い品種に事業を特化して、他社の追随を許さない製品への道を開きやすい。半導体工場を持たないファブレスの集積回路設計会社と、半導体製造サービスに特化したシリコン・ファウンドリによる分業、この分業は、出版社と印刷会社の分業によく似ている。

 半導体メーカーは半導体製造装置を購入し、工場を建設する。製造技術が高度化し、大口径ウエハーに微細加工を施すようになるにつれ、製造装置は高額になり、半導体製造工場への設備投資は巨額になる。その減価償却が半導体製造における最大のコストになっていく。

 半導体製造工場の巨額の設備投資、これを1社が設計した集積回路の製造だけで償却できるか。マイクロプロセサ大手のIntel社には可能だった。またメモリーの大メーカーであれば、何とかなる。そのIntel社やメモリー最大手のSamsung Electronics社さえ、ファウンドリ事業に乗り出している(前述)。まして、ほとんどの半導体メーカーにとって、最先端半導体製造工場の維持は困難になってきた。その分、ファウンドリへの依存が大きくなる。

 ファウンドリは製造に特化する。複数企業から設計データを受け取り、ウエハー・プロセスを施して納品する。その意味でサービス業である。ファウンドリでは、複数企業からの設計の受注で製造ラインの稼働率を上げ、投資の償却を図る。すべてのチップ設計者に門戸を開いて製造を引き受ければ、装置の稼働率を上げることができる。個々の製品種別の好不況の影響も小さくなる。

 ファウンドリ事業で世界一の企業は台湾のTSMCである。Morris Chang氏が1987年に創立した。ファウンドリのビジネスモデルを確立するうえで、Chang氏の果たした役割は大きい[「20年も残る統合メーカー、インテル・サムスンだけ(張CEO一問一答)」、『日本経済新聞』、2010年05月15日付 朝刊]。