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分業に消極的だった理由の一つは減価償却コストへの意識の低さ

 日本の半導体メーカーは、上記のファブレス-ファウンドリの分業に、ごく近年まで背を向け続ける。そしてひたすら衰退していく。2000年代の後半からは、さすがの日本企業も統合を維持できなくなり、ファブレスへ向かい始める(後述)。

 日本の半導体メーカーが設計と製造の分業に消極的だった理由の一つに、減価償却コストへの意識の低さがある。私はそう考えている。輪転機への設備投資をどう償却するか。出版社と印刷会社の分業は、この問いへの解として導かれた。減価償却コストへの意識が低いと、設計と製造の分業の経済合理性に気がつかない。

 日本の半導体技術者はランニング・コストには敏感だが、減価償却コストへの意識は低い。本連載の前回で私はこう述べた。技術者の意識の低さを経営者がとがめなかったとすれば、あるいは技術者の意識を高める努力を経営者がしなかったとすれば、減価償却コストへの意識の低さは、企業の体質だということになる。

 図2を見てみよう。この図は国内半導体メーカー12社の、集積回路売上高合計と設備投資金額合計の年次推移である。売り上げが伸びたとき、その当の年に設備投資金額を増やす、この傾向が歴然だ。売り上げが落ちると設備投資も減らす。これもはっきりしている。そうするとどうなるか。

図2 日本の集積回路の設備投資金額と売上高の年次推移
資料:『ICガイドブック(第8版)』、日本電子機械工業会、2000年、p.194
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 その結果が図3である。この図は前図と同じ12社の、売上高合計と減価償却費合計の年次推移である。図3において、売上高と減価償却費は、1980年代前半には並行して上昇している。設備投資と、その結果としての売上増が健全だったことを示す。ところが1980年代後半以後は様子が違う。減価償却負担は、売上が減ったときに、しばしば大きくなっている。この状況が何度も見られる。

図3 日本の集積回路の売上高と減価償却費の年次推移
資料:『ICガイドブック(第8版)』、日本電子機械工業会、2000年、p.194
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 例えば1985~1986年には、売り上げが急減しているのに、減価償却費は大きく上にふくらんでいる。好況だった1980年代前半(特に1984年)に投資を積み上げ(図2)、その償却負担が不況期に重くなってしまったのだろう。設備投資を売り上げと同相で実施した結果、減価償却負担が売り上げと逆相になる、これが頻繁だ。利益は乱高下したに違いない。

 「売り上げと同相の投資、売り上げと逆相の償却負担」という構図は、テレビ事業の設備投資でも観察される(本連載の第2回参照)。2007~2009年、日本の家電メーカーはテレビ工場建設に大規模な投資を実行した。地上デジタル放送受信のためのテレビ買い換え需要(地デジ特需)が盛んだったときである。当然テレビの売り上げは伸びていた。そのときに工場建設投資を増やす。工場が出来上がり、減価償却負担が本格化するのは2010年を過ぎてからだ。

 2011年7月にテレビのアナログ放送は終了、地デジ特需は激減する。売り上げは減り、減価償却負担が重くのしかかる。かくて日本のテレビ・メーカーは2012年以後、不振を極める。減価償却コストへの意識の低さは、半導体産業だけのものではないのかもしれない。

 なお図2と図3は、通産省(現経済産業省)が1990年代末に、当時の日本の半導体メーカー12社について調査したデータ[『ICガイドブック(第8版)』、日本電子機械工業会、2000年、p.194]に基づく。減価償却費は、設備投資金額全体に5年の定率償却を適用して計算した。償却率には当時の法定償却率0.369を用いている。定率法の場合、初年度の償却費が大きくなる。設備投資を年度初めにするか年度末にするかで、当該年度の償却費は大きく違う。これを調整するため、実施時期は平均的に年央とし、初年度の償却費は一律半額とした。また6年目には一律に除却するとし、以後には減価償却費を計上していない。