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 ソーシャルホスピタル--社会が病院に。1月1日に発足した「日経デジタルヘルス」のメンバーが、本日付の日経エレクトロニクスの特集記事に付けたタイトルがこれです。今まで病院でしか受けられなかった各種の医療サービスが、社会全体に広がっていくことを表現した言葉です。かれこれ20年余り日経エレクトロニクスに関わってきた筆者は、表紙に病院の文字が躍る日が来るとは思ってもみませんでした。

 電子技術の専門誌がなぜ病院なのか。その心は、「ソーシャルホスピタル」の主役が電子技術だからです。社会のあらゆる場面で人々の健康状態を検知するセンサーや、それを集約するネットワーク、集めたデータから身体の不調を判断する技術など、ソーシャルホスピタルは電子技術の活躍の場にあふれています。実際、日立製作所や東芝、ソニーといった電機大手から、電子部品・半導体メーカーまで、この市場に参入するエレクトロニクス関連企業は引きも切りません。とりわけ、世界に先駆けて少子高齢化が進む日本のメーカーが、この分野で事業の拡大を目指すのは当然の成り行きです。

 ここで指摘したいのは、電機メーカーが医療・ヘルスケア関連技術に取り組むもう一つの理由です。ソニーで医療事業を統括する斎藤端氏の言葉が、それを端的に物語っています。「生体に関するさまざまな情報をウエアラブル端末で取得し、それをクラウドにつなげる。そういう時代が必ず訪れると思います」。今後、人々の健康管理のために収集される各種のデータは、クラウドに集約されることでビッグデータとして処理されます。処理結果の応用範囲は、必ずしも医療やヘルスケアにとどまりません。ソーシャルホスピタル用に整備した端末やインフラは、さらに広い用途への入り口になる可能性が高いのです。

 現在、多くのメーカーが腕などに付けて人々の活動量や消費カロリーなどを測るセンサーを発売済みです。これらの機器が人気を集めるのは、人々の健康意識に訴えかけるからでしょう。「スマホのような生活利便のための端末では、わざわざ身につける動機になりにくい。『長生きできる機器』と言われた方が、ユーザーは身に着ける気になる」(川口、「メガトレンドから考える日本の電子産業の未来」、『日経エレクトロニクス』、2014年1月20日号)のです。

 人々がこうした機器を日常的に身につけ始めると、健康管理以外のサービスにも活用されるのは必至です。ソニーが家電展示会「2014 International CES」で発表した「ライフログ・モジュール」にその片鱗がうかがえます。同社は具体的な用途をまだ明言していませんが、「ライフログ(生活記録)」という名称はもちろん、連携するアプリに自動車の項目があるなど、単なる活動量計の範疇を超えて、人の活動一般を捉えていこうという姿勢が垣間見えます。

 実際、センサーを使って人間の行動を浮き彫りにする技術は着々と進歩しています。ソニーは、テニスラケットに付けてショットを計測する「スマートテニスセンサー」を5月に発売する予定です。3軸の加速度センサーと3軸のジャイロセンサー、1軸の振動センサーを使って、インパクト位置やスイング速度、ボールの速度、回転などをリアルタイムで解析できるとか。ウエアラブル機器によって多くの人々の膨大な活動データが集まっていけば、人々の多様な行動をリアルタイムで把握できる未来が確実に近づいて来そうです。