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 今回から紹介する華麗なる技術者は、これまで本コラムで連載してきた技術者や研究者とは、少し異なる取り組みをしている人物である。大企業の中で新しい分野の製品につながる研究成果を上げ、その研究活動の中で得た知見をイノベーションを活性化するための組織に落とし込み、マネジメント手法に生かそうとしている人物だ。

 東信和氏、45歳。日本たばこ産業(JT)のたばこ事業本部 事業企画室 イノベーション推進担当 部長の肩書きを持つ。同氏は、JTの研究者としてたばこのにおいに関する研究開発を手掛けてきた。たばこの煙の成分を分析し、においの要素成分を解明していく研究だ。その成果は、「気になる嫌なにおいを抑えたたばこ」のシリーズとして、20銘柄以上の製品に結実した。今や一つの製品カテゴリーなった研究である。

東信和氏。JT たばこ事業本部 事業企画室 イノベーション推進担当 部長。
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 現在は、所属する事業企画室で「iCOVO(アイコーボー)」と呼ぶイノベーション推進チームを率いている。十数名が所属するこのチームは、イノベーションにつながるコンセプトを創出するためにJTが2012年4月に立ち上げた。

 多くの大企業は新規事業開発を推進するため、同じような部署やタスクフォースなどを組織している。組織の形態はさまざまだが、わざわざ専門組織を立ち上げなければならないという点は、「新規事業によるイノベーションの創出」という大企業に共通の悩みを象徴しているとも言えそうである。

 JTのチームも、こうした流れにある取り組みの一つだ。では、東氏が率いるチームのユニークなところは何か。それは、社内での位置付けである。このチームは、自分たちで頭をひねり、社内調整をせずに開発したコンセプトを経営トップに直接ぶつけられる。そして、経営トップがそれを承認したら、チームの提案は開発やマーケティング、製造といった社内の各部門を巻き込んで実行に移されるという権限を持っているのだ。

 通常の大企業ならば、新規事業のコンセプトを現実のものにするために多くの調整が必要である。研究部門や開発部門、営業やマーケティング部門、管理部門などが議論を重ね、コンセンサスを得た上でようやく経営トップに提言するというステップを踏む。仮に、トップ直轄の組織であっても、多くの場合は社内調整が避けられないだろう。

 新規事業開発室のような組織を立ち上げても、ほとんどのメンバーが別の部署との兼務者というケースもよく聞く話だ。結局、“本業”に忙殺され、新規事業の方はおろそかになってしまうことも少なくない。さまざまな部署の人材を呼び集めるタスクフォース型の新規事業開発チームを立ち上げても、最終的に当たり障りのない提言にとどまり、何も生まれない。これもよくあるケースではないだろうか。