専門性や立場の異なる複数の識者が半導体の今と将来を論じる「SCR大喜利」、今回のテーマは「米Applied Materials社(AMAT)と東京エレクトロン(TEL)の経営統合を読み解く」である。半導体製造装置業界の大手2社の経営統合の背景には何があるのか、そして業界にもたらすインパクトとは。半導体業界の動きを常に追う5人のアナリスト、コンサルタントに聞いた。
各回答者には、以下の三つの質問を投げかけた。今回の回答者は、野村證券 グローバル・リサーチ本部 エクイティ・リサーチ部 エレクトロニクス・チーム マネージング・ディレクターの和田木哲哉氏である。
野村證券 グローバル・リサーチ本部 エクイティ・リサーチ部 エレクトロニクス・チーム マネージング・ディレクター

1991年東京エレクトロンを経て、2000年に野村證券入社。アナリストとして精密機械・半導体製造装置セクター担当。2010年にInstitutional Investor誌 アナリストランキング1位、2011年 日経ヴェリタス人気アナリストランキング 精密半導体製造装置セクター 1位。著書に「爆発する太陽電池産業」(東洋経済)、「徹底解析半導体製造装置産業」(工業調査会)などがある。
【質問1の回答】高い危機感。背後にあるのは市場成長の鈍化、顧客の寡占化、技術の停滞
半導体製造装置メーカーの経営者は、自社および業界の将来に対して、相当高い危機意識を持っているものと思われます。投資家の前では「装置産業は成長産業」「数年後には、売り上げ、利益ともさらに大きく成長する」と言っておりますが、もちろん、これは努力目標や士気高揚のための共同体共有ビジョンというべきものであって、頭からそのようなことを信じているはずはないと思います。
微細化ペースの鈍化による設備更新サイクルの長期化や、顧客の寡占化による購買力の増大と値引き圧力の高まり、両要因による設備投資比率の低下という厳しい現実が目の前にあります。そして、自分たちも関わっていたLED製造装置や太陽電池製造装置が一瞬の巨大市場形成の後、一気に蒸発してなくなってしまうという装置業界の業(ごう)を象徴するような惨状を最近目の当たりにしたばかりです。
装置業界の経営者は、多くの半導体メーカーが国際競争に敗れていく中、自社のポジションを守り抜き、しかも企業によってはITバブル期を上回るような利益を上げることに成功した経営の猛者ぞろいです。彼らは未来を冷徹に予想し、不都合な結論であっても受け入れる度量があります。当然ながら、社内では装置市場の停滞もしくは衰退というシナリオを想定し、布石も着々と打っています。このような環境下、危機意識と問題意識を共有できたTELとAMATが統合に至りました。装置業界の生き残りのために「Good Faith」を持ったリーダーが誕生した、と言っても良いかもしれません。

