専門性や立場の異なる複数の識者が半導体の今と将来を論じる「SCR大喜利」、今回のテーマは「米Applied Materials社(AMAT)と東京エレクトロン(TEL)の経営統合を読み解く」である。半導体製造装置業界の大手2社の経営統合の背景には何があるのか、そして業界にもたらすインパクトとは。半導体業界の動きを常に追う5人のアナリスト、コンサルタントに聞いた。
各回答者には、以下の三つの質問を投げかけた。今回の回答者は、服部コンサルティング インターナショナル 代表の服部 毅氏である。
服部コンサルティング インターナショナル 代表

【質問1の回答】半導体市場の寡占化、半導体装置市場の低迷、新製品(装置)開発費の高騰
統合の狙いは、半導体市場の寡占化、装置市場の低迷、開発費の高騰、ユーザーからの要求の高度化などの状況下にあって、相互補完的な製品群や技術力を持ち寄り、顧客に低コストで高度なソリューションを提供することにあると関係者は説明する。背景にこのような半導体業界のドラスティックな構造変化があるのは確かだが、それに加えて両社の内部事情があるのではないだろうか。
日本では「TEL、経営統合で世界一へ」と報じられているが、海外の主要メディアは「AMATがTELを93億米ドルで買収する」と報じている。当事者たちは日米まれにみる対等な統合を強調するが、最終的な持ち株比率(AMAT68%,TEL32%)を見れば勢力関係は一目瞭然だ。AMATのCEOのDickerson氏は東京に居を移して陣頭指揮すると意気込んでいるというし、財布のひもを握るCFOもAMATから出るとなれば主導権がどちらにあるかは明らかだろう。
このような経営統合(事実上の買収)の背景には、多分に両社の内部事情があろう。TELの東社長は長年、米国SEMIの役員や会長を務めてきた。米国装置メーカーのトップとの交流を通じてグローバルでダイナミックな経営を目の当たりにし、自社も何とか米国流経営手法を取り入れてグローバル企業に生まれ変わりたいとかねがね考えていただろう。
TELは経営陣の報酬こそ米国企業並みに引き上げたものの、企業自体はローカルな子会社の集合体という側面がある。TELはかつて半導体装置メーカー世界首位の座を謳歌していたが、今やオランダASML社にも抜かれて3位となった。
これまで国内半導体メーカーと一心同体で新装置開発に取り組んできたが、このままでは共倒れしてしまう。そこでTELにとっては早急なグローバル化が必須の状況になっていた。しかしTELは、微細化を先導する米Intel社にはなかなか食い込めないでいる。Intel社と蜜月関係にあるAMATとは対照的だ。
こうした同社の弱みを読んだ上でAMATはTELに声をかけたのではないだろうか。AMATにとっては、米Novellus社を吸収し技術力を強化する米Lam Research社に対抗することが動機の一つだろう。さらに、AMATが何度もトライしてきたものの参入できなかった塗布・現像装置(ウエハートラック)や、縦型酸化拡散炉、枚葉スピン洗浄などのプロセス・装置を入手する狙いもあっただろう。(質問3への回答参照)
TELにとって、米国流経営手法を取り入れて真のグローバル企業となり、ナンバーワンに返り咲くには今しかないということではなかったのだろうか。東社長が夢見た本格的グローバル経営、世界ナンバーワン企業がまがりなりにも実現することになる。好条件でAMATに買収してもらうのは、経営状態が悪化していない今しかない、という状況だったのではないか。AMATは対等合併であることを必要以上に強調し、TELのプライドを傷つけることなく買収を断行する。