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 彼は、影のCIA(米中央情報局)とも呼ばれる「ストラトフォー(STRATFOR)」という米国の民間情報機関のCEO(最高経営責任者)を務めている。その彼が著書『100年予測』で描くのは、「地政学」一本やりで描き切る未来の風景だ。地政学だけでここまで語れるのかと驚かされるこの本は、地政学の面白さを伝える伝道書とも言えるほどだ。

 同書には賛否両論があるが、メッセージは明確で、読み物として痛快なだけでなく、要所を押さえた鋭い洞察力を感じさせるものだ。同書の後半部分に入ってからは、米国の巨大軍事衛星デススターやマイクロ波による戦車機甲師団の活躍する描写に筆が走り、徐々に熱いSF架空戦記色を強める。このため、「軍事オタク向けの本」と間違われかねない部分があるが、少子高齢化やコンピューター技術の本質を米国的思考パターンでうまく解釈するなど、各所に光る才能を見せつける力作である。

 また、これほど日本の潜在力を高く評価している未来本もほかに類を見ない。彼が日本を侮れない国と高く評価するポイントは、従順さと忍耐力、団結力にあると説く。いわく「日本には経済政策や政治方針を大きく転換しても国内の安定が損なわれないという特質がある。日本が大きな社会変革を経ても基本的価値観を失わずにいられるのは文化の連続性と社会的規範を持つからである。短期間のうちにしかも秩序正しいやり方で頻繁に方向転換できる国はそうない。日本にはそれが可能であり現に実行してきた。国家分裂を招くような社会的文化的影響力から守られている」。

米国の強さについては微塵もぶれない信念

 本書では、これから始まる21世紀の戦国絵巻物を生き生きと物語風に紹介するのだが、「米国の無敵状態は、将来も永遠に不滅です」という点で一貫してブレがない。何より面白い点は、欧州の時代が終焉を迎え、これからはいよいよ「北米の時代」になるのだ、というくだりからこの本が始まる点だ。

 多くの未来予測本では「これからはアジアの時代」「太平洋の時代」「エマージングの時代」「中国の時代」などと打ち出すのが定石になっているようだが、本書では、色々曲折はあるもののこれから先も未来永劫・北米の時代なのだ、とはっきり言い切っている。米国は本土を戦火に曝したことは一度もない。米海軍はすべての海洋を支配している。人類史上初のことだ。この支配は「まだ始まったばかり」で、21世紀は本格的に米国の世紀になるという。

 同書は、ロシアや中国は2030年までに早晩内部分裂・崩壊してしまうとする。両国とも米国に挑戦するどころの騒ぎではなく、あと10年程度のうちに自滅して砕け散ってしまう。それが地政学的な分析の帰結なのだそうだ。欧州においては、独仏の衰退が著しく両国は「無気力に陥って二度と立ち上がれなくなる」らしい。さらには日本やトルコ、ポーランド、メキシコなどが無敵の米国に挑戦しては結局敗れ去ることになる。

 このあたりのストーリーはあまり重要ではないだろう。注目すべきフリードマンが喝破する米国の本質とは、「粗野までの若さ」にあるという点だ。「アメリカはまだ完全に文明化されていない。16世紀のヨーロッパのように、まだ粗野である。文化はまだ形を成していない。意思力は強い」「アメリカは戦争の申し子であり、今なお加速するペースで戦い続けている。基本戦略および戦略の根源を成しているのは恐怖心である」。

 書評の名手、小飼弾はこのことを「アメリカの若気の到り」と表現した。言い得て妙である。若気の到りは21世紀の次の百年間もまだまだ続く。そして腕力にモノを言わせつつ正義を叫び続けるのだ。「これからも俺たちについてこい」といった「傲慢さと責任感」が本著の行間にあふれている。