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 こうした分析の根底にあるのは、欧州の没落に対する無念感と怨嗟だろうか。同じ情感は、前回ご紹介させていただいたヨルゲン・ランダースの著書からも漂ってくるものだ。西洋の黄昏を感じつつ「こんなことになったのは誰のせいだ」と叫ぶ心の声が聞こえてくるようだ。

 その責任者の役目を一手に引き受けるのが現世界チャンピオンの米国なのである。アタリは米帝国の時代は終焉を迎えると言い、ランダースは没落した米国はその覇権を中国に譲り渡すのだと言う。まるで「ざまーみろ」という吹き出しが行間からあぶり出されてくるようだ。

 ただ、米国に毒づき、没落する欧州とともに世界も終わるといった悲観論を延々と述べつつも、最終章に近づくにつれて唐突に楽観論に転じる。このあたり、ランダースの著書と似ている点が興味深い。アタリは、繰り返される大人たちの愚行に、遂に愛想を尽かした若者たちが反乱を起こすという。新人類的な新たな文化・価値観を創り上げ、急転直下世界は調和に向けて歩み出すのである。

 この「ニュータイプ」をアタリは「トランスヒューマン」と命名し、ランダースは「ミレニアル世代」と呼ぶ。名前は違っても、いずれの著作でも、こうした共創思想や利他的行為に目覚めたニュータイプが世界的規模で出現することで人類の危機的状況は回避され幸せに暮らしましたとさ、とめでたく話は大団円を迎えるのである。

かつての新興国、日本はこれからも「技術命」?

 これまで西洋各界の賢人たちの語り口調から、あら探しをするように筆者の心情を抽出してきた。「著者が属する国の立場の違いが本来冷静であるべき予測の内容に一定の影響を及ぼしていしているのでは」ということを具体的示したかったためである。

 だからといってすべての分析結果を否定するつもりは毛頭ない。彼らの著書に述べられている個々の分析は、鋭い洞察と重要な示唆に満ちており、ページをめくるたびに頭を垂れて学ぶべき内容が多すぎて困るほどに濃密だ。私も数えきれないほどのことをこれらの名著から学ばせていただいた。要するに、著者も人間である以上、「立場の違いが予測結果に一定の影響を及ぼす」ということは避けがたいことで、それを踏まえて名著は味わえばよいということかと思う。

 ここで、日本人の描く未来予測についても若干の考察を加えてみたい。誰のどの本を選ぶべきかと迷ったが、オーソドックスに未来予測本の老舗である三菱総合研究所が編集した『全予測2030年のニッポン―世界、経済、技術はこう変わる』(日本経済新聞出版社、2007年)を選んだ。三菱総研は、言わずと知れた日本最大級のシンクタンクであり、政府や官公庁、地方公共団体などから委託される各種調査研究を通じて重要な政策の策定にも大きな影響力を保持している。