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「予測される未来」が示す日本の進路

 これまで各国得意科目の分野での賢人たちの未来予測書を取り上げ、「作者の気持ち」という部分に重心を置きながら分析を進めてきた。意地悪な見方をした部分もあるが、それぞれの予測リポートの各論は充分に緻密で説得力のある力作だ。一読に値する良書ゆえに取り上げたわけで、皆様にもぜひ一読をお勧めしたい。

 覇権などという青い野心を捨て、諦観の中で小さな幸せを見つけよと説く北欧の学者、大国への野心はもはや諦めつつも、なんとかうまく立ち回りつつ「夢よもう一度」と願うフランスの知恵者、これまでの実績を強調し、世界政権体制の維持を切望する米英の賢者たち…。

 我田引水、自画自賛と言ってしまえばそれまでだが、その色彩こそが「未来はどうなる」という冷静な予測の中に込められた「どうする」「どうしたいと思う」という意思の表れであり、むしろ最も重要な部分だともいえる。世界を動かすリーダーたちの意思は、それ自体が未来を決める大きなファクターとなるからだ。

 日本も「キャッチアップの季節」を経て、次なるステージへの脱皮変態が求められる段階に達した。ずっとこのまま居続けられればよかったのかもしれないが、アジアの後輩たちがどんどん追い上げてくる状況にあって、成長を止めているわけにはいかない。「変わらなければならない」理由はほかにもある。例えば、世界でも稀にみる激しさで少子高齢化が進行しているという事実だ。環境が変われば、やり方も変えなければならないというのは自明のことである。

 幸いなことにわが国には「こだわり」のモノ作り職人気質だけでなく、「おもてなし」の習慣もある。ポスト工業化社会を迎えサービス産業の時代に移行しても、元来内在していた我々の強みが価値として再発見されるかもしれない。

 大国目線で地平線を見通すことは苦手でも、世界で高く評価される文化や気質、習慣がある。これをどう価値化し、競争力に変えていくかがこれからの大きな課題になるだろう。重要なのは、「どうなるか」を知ったうえで、「どうするか」という確固たる意思を固めることである。それは、「幸せ」を定義化し、それを実現するモデルを作るという作業ともいえる。

 サステナブル、オープンソース、エマージング、多極化、サービス産業化、知識社会の到来など、様々な要因によって社会環境は目覚ましい変貌を遂げつつある。そんな中で日本ならではの幸せのモデルを考え、その実現に必要な技術開発に知恵を投入しなくてはならない。

 ここで言う技術とは、従来型の自然科学由来の工学技術のみを指すわけではない。自然科学や人文科学、社会科学を総動員して国のあり方、コミュニティーや企業のあり方、NPO(非営利組織)のあり方を考え、それを実現するためには何が必要なのかを見つけなければならない。

 先覚者は既に、その仕事に取かかっている。例えば経営に関する競争戦略理論の草分けとして知られるマイケル・ポーター(米ハーバード大学教授)は、「CSV (Creating Shared Value、共有価値創造)」というキーワードを提唱し、富の分配法についての理論体系づくりを始めている。21世紀的な競争原理を突き詰めると、それは「幸せの戦略」であるということにいち早く気づき、システマチックにその理論体系化を進めているのである。

この記事は日経ビジネスオンラインのコラム:未来に学べ! メガトレンド2023から転載したものです。