PR

妄想のスイッチとは

「時代劇とかでさ、クルミとか手の中で回すシーンがあるよね」
「そうそう。結構、手慰み装置の歴史は古いんです。それって、グローバルな話で。中国では、クルミと同じように手の中でくるくる回す専用の玉があるし、ギリシャにはコーヒーを飲みながら手遊びする数珠のようなやつがあるんです。『コボロイ』っていうんですけど。昔から右脳を刺激するって、分かってたんだろうな」

 古代文明発祥の地に思いを馳せながら、川口さんは遠くを見る。すると、くぼたつさんはこう切り出した。

「さっき、ペン回しって言ってたよね。その意味では、使いこなすための最初の壁は高い方がいいのかもしれないな」
「やはりそうですか。最初の壁が高いほど、習熟すると脳は喜ぶと思うんです。ピアノとかはそうですよね。最初は弾くこと自体を覚えるために必死だけど、習熟してしまえば弾いていることが快感になっていくでしょ。でも、習熟することが目的になるとコンセプトが少し違う気がするんですよ」

 次第に議論が本格化して、くぼたつさんも前のめりになっていく。

くぼたつさん(左)と川口さん(右)

「ペンで思い出したけど、俺も考え事をするときにはいじるんだよ。万年筆なんだけどね。この万年筆は、ふたがネジ式でさ。アイデアに煮詰まると、無意識のうちに回しているんだ。あと、腕時計。リューズを回しちゃうんだよね。こういうのって、考えることを持続させるために必要なんだな」
「そうでしょう? そういう無意識の行為に特化した商品というのがメタコンセプトなんです」
「すると、音とか、においとか五感に訴えるのも大切だね。万年筆ってさ、インクのにおいが結構重要なのよ。メーカーによってにおいが違うもの。万年筆メーカーは、それも考えていると思うな。万年筆だと何百万円みたいな値段もあるもんね」
「それいいっすね。500万円のスイッチとか」

 いいオトナたちが、手慰み用のスイッチについて真剣に語り合っている。恐らく、離れた場所から観察するとかなりシュールな場面だろう。頭の隅の方では、そう思っているけれど、アイデアが膨らんでいく過程はエキサイティングでもある。ここで、黙って聞いていた所長が語り始めた。

「僕ね、ヴィンテージのスイッチとか、いいと思うんですよね」
「ほう」
「例えば、戦闘機についていた発射ボタンとか」
「いいねぇ、ゼロ戦とかあったら最高!」
「ピストルの名機の持つところと引き金だけとか」
「そういうのは、復元品でも買うね」
「買う買う、すぐ買う」

 盛り上がりを見せる会議室。果たして、発散しまくるアイデア会議はどこに向かうのか。

 日はとっくに暮れて、窓の外にはただ街灯ばかりが怪しく光を放っているのであった。