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 改めて言うまでもなく、日本の半導体業界では、収益の改善を目指した再編が進められている。しかし「再編」と言えば聞こえは良いが、実際には国内に点在する製造拠点を統合したり閉鎖したりするような事例がほとんどで、極めてネガティブな作業の繰り返しである。そもそも日本の半導体業界は、何を変えるべきで、何を変えざるべきなのか、という議論が欠落したまま、完治も再起も期待できない「再編」を進めているようだ。ここでは、そのあたりの論点を整理してみたい。

 一般論でいえば、業績が悪化した企業は手元の資金が不足するため、出資なり融資なり、資金の調達戦略が最重要項目となる。必然的にメインバンクや投資家の発言権が強くなり、彼らが納得する再建計画を示さねばならない。特に半導体事業は固定費の負担が大きいため、「どうやって収益を改善するか」という課題は「どうやって固定費を削減するか」という課題に置き換えられる。そのため、膨大な固定費が掛かっている生産拠点の統合や閉鎖、という再建計画が立案されるケースが圧倒的に多い。確かにこれは事業を存続させるための手段の1つであり、出資や融資が得られれば、経営者は一定の評価を受けることができよう。

固定費削減のためのリストラは士気低下を招く

 しかし一方で、多くの従業員が固定費削減の目的で解雇され、拠点の周辺経済に大きな打撃を与え、残された従業員のモチベーションは下がり、会社全体の士気にも大きく影響する。そもそもメインバンクや投資家は半導体事業を十分には理解しておらず、財務諸表の分析から結論を導き出すことに慣れている。それゆえ固定費負担の大きい部署や部門に照準を絞り、そこの改善を求めるのが通常の考え方だ。実際にメスを入れて固定費を削減した後、その組織が有機的にどのような影響を受けるか、ということは予測のしようがないのである。

 しかし、組織は感情を持った人間の集合体であり、有機的な行動や反応を起こす生き物である。だから上述のような固定費削減を実行すると、モチベーションや会社全体の士気に影響が出るのは当然である。削減された固定費の大半は従業員であり、固定費である以前に感情を持った人間なのだ。経営者の中には「そんなことは分かっているが止むを得ない、経営者の辛い選択なんだ」と反論される方もおられるだろう。確かに筆者はこのような辛い経験のない気楽な立場ではあるが、製造拠点の閉鎖を「止むを得ない」とは決して考えておらず、この場で持論を展開させて頂きたい。

実体なき「システムLSI」でラインを埋めようとしたが…

 長い歴史を持つ日系半導体メーカー各社は、設計も製造も販売もすべて自前のリソースで行うIDM方式を採用してきた。これらの部門は文字通り三位一体となって事業を営む、というのが建前である。だが、これまでの日系半導体の歴史において、製造部門の経験者が半導体事業全体のトップに立つケースが圧倒的に多いことを見ても分かるように、製造部門に最大の経営資源を割り振ってきたのが各社の実態である。特にDRAM事業で収益の大半を稼ぎ出していた期間が長いため、設計や販売よりも製造が重要視された、と見ることもできよう。

 このDRAMで勝てなくなり、方向転換を余儀なくされた時点から、各社のビジネスモデルに問題が露呈し始めた。各社とも戦略商品をDRAMからシステムLSIに切り替えるという方針を打ち出したわけだが、実はシステムLSIという用語は頻繁に使われる割には定義が曖昧である。

 乱暴を承知で言えば、システムLSIはMCU、ASIC、ASSPに類別され、それぞれに求められる技術やマーケティング要素は大きく異なる。そのため、1つの単語にまとめても実体のない、曖昧な用語になってしまうのだ。このあたりの詳細は別の機会に触れるとして、各社は「システムLSI」という実体のないモノをDRAMの代替品として戦略商品に位置付け、製造部門を中心とする従来戦略を継続しようとした。各社とも1000人規模の従業員を抱える生産拠点をあちこちに持っているため、とにかくDRAMに代わる何かを量産することが不可欠だったのである。