自ら試作・検証する試験課を希望
RE研究部には3つの設計課、3つの試験課、そして1つの調査課(庶務や技術管理など)があり、最終配属前にさらに各課を実習で回った。初めは、白いワイシャツにネクタイを締めて仕事をするホワイトカラーの設計課に憧れたが、これも実習期間中に考えが変わった。
試験課では、入社5年以内ぐらいの若手が仮説を立て、REのあちこちを自ら工作機械や溶接具で切ったり貼ったりして試作し、実際に運転して検証するという“実験”をしていた。自作できなければ設計に依頼してアイデアを図面に描いてもらい試作工場で試作し、試験・評価していた。ドラフターの前で黙々と図面を描く仕事に比べたらこちらの方が格段に面白いと思い、試験課を志望して配属となった。RE試験課で初めて分解したREのトロコイドフォームは“機能美”と呼ぶべき芸術的な美しさで背中に震えが走った。エンジンもコンパクトなので、REが搭載された車はエンジンルームがスカスカなのにも感動した。
ところが、当時始まった排ガス規制対策のRE車は排ガス対策デバイスが満載だったので、エンジンルームをのぞいてもRE本体が見えず、がっかりした。当時市販間近の「ルーチェロータリークーペ」に搭載された「13A型」RE(排気量はレシプロ換算で2600cc)の排気管は板厚が2mmぐらいの鋼板で造られており、2人掛かりで運搬するほど重たかった。REを台上試験機で運転させ、回転数が5000rpm以上になると、排気管が真っ赤になったので驚いた。

その様子を見た先輩は、「RE車が夜間に三次市にあるテストコースのバンクを走ったら、真っ赤な鉄棒が走っているように見えるよ」と教えてくれた。そんな状態で火災にならないのだろうかと思ったが、車のエンジンとはそんなものなのだろうと考えるようになった。後年にレシプロエンジンの台上試験を見学した時、排気管はまるでブリキのような鋼板で造られていながら、回転数が5000rpm以上になっても真っ赤にならず、逆に驚いた。