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3カ月で7年分の知識を吸収

 私が配属された試験課は、設計が試作したREや市場から回収したREの性能を評価して報告するだけの請負試験チームだったので、退屈だった。そこで、実験現場作業は技能系社員に任せて、自分は事務所に保管されていた「RE研究報告書」や「RE実験事実速報」などを読み漁った。

 そこには、東洋工業が初めてREを試作・実験した1961年の第1報をはじめ、数百に及ぶ報告書がファイルされており、先輩がさまざまな仮説を立てて試作・実験した結果と考察がつづられていた。これはREの知識の宝庫であり、ワクワクしながら読み漁った。しかし、課長に「事務所で書類ばかり読んでいないで現場に行って仕事しなさい」と言われたので、終業後に居残って報告書を読むことにして、3カ月で全てを読み切った。わずか3カ月で、数十人の先輩たちによる7年分の意図、思索、検証結果、考察という貴重な知識をすべて吸収したことは、その後のRE研究に非常に役に立った。

 当時は、課長の言葉のように、現場で油まみれになって仕事をすることが尊重されていた。そのため、私の同僚は現場中心で仕事をしていたが、先人の経験を学ばず、個人的思惑で同じことを繰り返して同じ失敗をすることが多かった。

 私は、先人の経験の上に自分の知識を上乗せするという仕事のスタイルをこの時に確立した。当時の課長は、新人に対して、過去の研究報告書や実験事実速報を全て読ませるという教育をすべきだった。この課長個人の問題ではなく、当時がそういう時代だったわけだが、長い目で見ればそれらを読むことにかかる時間やコストの数百倍に相当する時間やコストを節約できたはずだ。