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「立てる・歩ける・動かせる」原理

 HALを装着した人が驚くのは、「椅子から立ち上がりたい」「歩きたい」「椅子に座りたい」と思うと、その思いが瞬時にロボットに伝わり、装着者の意思に応じた動作をしてくれることだ。言葉も発しないのに、人間がしたい動作をロボットが読み取ってくれる。

 なぜ、そのようなことが可能なのだろうか。

 開発者の山海教授の話を聞くと、身体への深い洞察とそれを最先端技術に融合させた卓越した発想に感銘を受ける。教授による「HAL学」の講義は、工学や医学の領域を超えて教育や哲学に及び、無限の広がりを見せるが、HALの基本的な仕組みについての解説をお願いしよう。

 HALには、サイバニック随意制御とサイバニック自律制御という二つの制御方法が混在しています。まずはサイバニック随意制御について説明します。

 私たちが身体を動かそうとすると、「体を動かしなさい」という指令が脳から身体に伝わってきます。その指令は脳でつくり出され、脊髄から運動神経細胞を通って身体に伝えられ、最後に筋骨格系が反応して身体が動くわけです。

 脳も神経系もすべてそうなのですが、基本的に人間の身体の一つ一つの細胞に、ナトリウム・チャンネルやカリウム・チャンネルといったイオン・チャンネルがついています。私たちがものを食べてイオンを取り込むのは、イオンというものが必要だからなのですが、こういったイオン・チャンネルの活動がイオン電流というものをつくり出しています。したがって、なにかをしようと思うと、脳がそれをつくり出して、そしてそれが脊髄や運動ニューロン系といった神経系に伝播していって、最後に筋肉が動くということになります。

 人間の意思が神経系を伝わって筋骨格を動かすわけですが、身体の表面を剥(は)いでしまえば、身体中がイオン電流の嵐なわけです。そういったイオン電流の嵐のなかで、どの部分をどのように動かしたいかという情報は、微弱な電気信号となって皮膚表面にもわずかながら伝わってきます。それを装着者の膝や太ももなどに貼りつけたセンサでキャッチし、装着者が背負っているバッグの中にあるコンピュータが処理して、下肢に装着した金属製のフレームに搭載したモーターが動いて、その動力が歩行をサポートする仕組みになっています。

ロボットスーツHALの仕組み
写真:CYBERDYNE Inc.
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