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人間が大きな力を出すとき

 山海教授は淡々とした口調で話すが、HALは人間と機械を融合させた、世界初の原理・技術であり、その高い評価は数々の受賞にも示されている。

 世界の技術界における最も革新的人物・組織を見いだして顕彰する世界テクノロジー大賞(ITハードウェア部門)が、2005年にHAL開発の研究拠点となった筑波大学とHALの製造販売のために山海教授らが設立した大学発のベンチャー企業サイバーダイン社に贈られている。

 同賞は、『タイム』(世界初のニュース雑誌)、『フォーチュン』(世界最大の英文ビジネス誌)、『サイエンス』(アメリカ科学振興協会が発行する学術雑誌)などの各誌と提携してワールド・テクノロジー・ネットワーク(本部ニューヨーク)が授与するもので、科学・技術の世界で同業者から最も革新的とみなされる個人・団体のなかから「セレンディピティ(予期しなかった良いこと)」を見いだす目的で創立された賞だ。HAL開発の功績に対する授賞の前年には、携帯型デジタル音楽プレイヤーiPod(アイポッド)を開発した功績によりアップル社に授与されている。

 このほかに、国際人工臓器学会、アメリカ合衆国人工臓器学会、国際連続流人工心臓学会などからも賞を授与されている。日本国内では、HALに関する基本特許が2009年に社団法人発明協会により最高の特許との評価を受け、「サイボーグ型ロボット技術の発明」に全国発明表彰二一世紀発明賞が授与された。このほかグッドデザイン賞金賞、日本イノベーター大賞、日本ロボット学会論文賞、産学官連携功労者経済産業大臣賞、つくばベンチャー大賞などを受賞している。

 山海教授とは、どのような人物か。「子供のときに芽生えた好奇心が、181センチのすらりとした長身に成長したいまも、体の中に満ちあふれている。アインシュタインは、『あなたは天才ですね』といわれたときに、『いや、天才ではありません。私は好奇心が強いだけです』と応えていますが、それを地で行くような人です」と、研究室のスタッフは評する。

 1958年、岡山県に生まれる。小学三年生のときにアイザック・アシモフの短編集『われはロボット』を読んだことと、石ノ森章太郎原作の『サイボーグ009』のアニメを見たことで、人に愛され、役に立つロボットやサイボーグを創り出す科学者・研究者に興味を抱く。

 小学四年生くらいから、ラジオやトランシーバーをつくったり、ロケットの燃焼室を試作して噴射実験を始める。そのころ、母親に呼ばれ「これから目は離さないけれど手は離しますよ」といわれ、おもちゃは買ってくれなかったが、電子部品、薬品、フラスコ等の実験道具ならなにも聞かずに買ってくれた。おかげで、興味を持ったこと、不思議に思ったことを自分のペースでじっくりと確かめられるようになる。こうして、ものごとの基本原理や本質を学び、自身が興味を持ったものをつぎつぎと調べ、試していった。

 1987年、筑波大学大学院博士課程を修了し、筑波大学講師、助教授、アメリカ合衆国Baylor医科大学客員教授、筑波大学機能工学系教授を経て、筑波大学システム情報系教授。サイバニクス研究センター長。CYBERDYNE(株)代表取締役社長/CEO。Cybernetics, Mechatronics, Informaticsを中心として、脳・神経科学、行動科学、ロボット工学、IT技術、システム統合技術、生理学、心理学などを融合複合した人間・機械・情報系の新学術体系を確立し、サイバニクス(Cybernics)と命名する。

 2004年6月24日、研究成果を活用することを目的に大学発ベンチャー企業「サイバーダイン株式会社(CYBERDYNE Inc.)」を設立、ロボットスーツHALの研究開発/製造/販売を推進。2008年、グローバルCOE(Global Center Of Excellence)プログラム採択。サイバニクス国際教育研究拠点拠点リーダー。2009年、最先端研究開発支援プログラム採択。Center for Cybernics Research(最先端サイバニクス研究拠点)中心研究者/研究統括。

最先端の技術を集結したHALの仕組みについて説明する山海教授(向かって右)。
写真:CYBERDYNE Inc.