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 以上が略歴だが、すでに小学生のときに後のHALの開発につながるのではないかと思える実験をしている。

 毎日のようにラジオや発信器などの電子回路を自分でつくる一方で、自宅の近所にある岡山城の堀でウシガエルを捕まえてきて、カエルの筋肉に自作した信号発生装置を使って電気信号を流し、筋肉収縮活動の基礎実験をし、筋肉の収縮特性を調べている。実験後、カエルはちゃんと堀に逃がしている。

 ロボットの研究者になりたいと思ったのは、九歳のときだ。風邪をこじらせて寝込んでいたら、母親が何冊か本を買ってきてくれた。そのなかに、アメリカのSF小説作家、アイザック・アシモフの『われはロボット』(原題『I,ROBOT』)があった。この本との出合いが、ロボット開発の道へと進む契機となる。

 ここには有名なロボット工学三原則が示されている。

 第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を見過すことによって、人間に危害を及ぼしてはならない。

 第二条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合はこの限りではない。

 第三条 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己を守らなければならない。

『われはロボット』の筋書きは、ロボットがこの三原則に反するような行為をとる事件が起こり、USロボット社の主任でロボット心理学博士の女性が事件の解明に挑むというものだ。九つの連作短編から成っている。

 山海少年は熱があるにもかかわらず、このミステリー仕立てのSF小説を夢中になって読みふけり、子供ながらもロボット三原則にのっとった、人間を幸せにするロボットを開発しようとの思いを強く抱く。

 九つの短編には、迷子のロボットや人の心を読むロボット、自分より下等な人間がロボットの創造主とは信じられないロボット、奇妙な行進を繰り返すロボットなど、さまざまなロボットが登場する。山海少年がいちばん好きだったのは、言葉を話せない子守ロボットの「ロビィ」だ。少女グローリアの最愛の友であったが、彼女の母親によって家を出されてしまう。再びグローリアとめぐり合った場所で、命の危険にさらされた彼女を身を挺して守る。

 前述した大村さんの結婚式のあと、HALを装着して歩行訓練を行った甲斐(かい)があってバージンロードをつえなしで歩くことができたとの報告が、教授のもとにもたらされた。それを伝えたサイバーダイン社の社員は「そのとき先生は目をウルウルされていました」と話している。もしかしたら教授は、大村さんの願いをかなえる助けとなったHALに、少年のころにあこがれたロビィの姿を重ねたのかもしれない。

 人間と機械を融合させたサイボーグ型ロボットを開発したいと思ったのは、やはり子供のころに愛読した石ノ森章太郎の作品『サイボーグ009』に影響されたところが大きい。ブラックゴースト団によって人造人間化された九人が、ブラックゴースト団の野望を阻止するべく戦うSFマンガだ。『鉄人28号』も好きなアニメだったが、あれだけ自由度を持ったロボットを、二つのレバーでどうやって動かすのだろうかと疑問を感じた。何度も食い入るように映像を見ているうちに、あるとき「はっと気づいた」。鉄人28号がアクションを起こすとき、正太郎少年が「パンチだ、鉄人!」と叫んでいる。「ああ、なるほど! あの二本のレバーにはじつはマイク機能が埋め込まれていて、音声認識でコントロールしているんだ」と勝手に想像して納得がいった。もちろん、マンガのなかでそのような設定があるわけではないが。

「人間が大きな力を出すとき、二つのパターンがありますよね。追い込まれてギリギリで出る力。そして好きで好きでたまらなく出る力です。どうせ力を出すなら、後者でしょう。なぜなら、やってもやっても疲れないから。好きで好きでたまらない。そういうときに出る大きな力がある」

『我らクレイジー☆エンジニア主義』(中経文庫)という本のなかで述べている山海語録の一つだ。