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すぅーっと立てました!

 HALの開発は1991年から始まる。

 最初の四年ほどは原理開拓に費やされる。原理がまとまった段階で、大学の研究室で試作を重ねる。デスクの上に制御装置や子機などをずらりと並べて、そこからロボットに太いケーブルをつなげて動かす。大学の研究室は研究室ごとに壁で仕切られたコンパートメント(個室)になっていて狭い。歩行試験を行えるスペースは四メートルほどの距離しかない。「先生、壁です」と学生からいわれると「それは研究の壁かね。それとも本当の壁かね」といわざるをえないような状況だった。

 1997年から一号機、二号機と順番に改良を加えていき、三号機で大きく飛躍する。それまでデスクに並べていた機材をコンパクトにしてロボットに背負わせ、実験室の外に出られるようにした。屋外を歩いたり階段を上がったり、実際のフィールドでさまざまな検証を重ねることによって急速に進化した。

 2004年にHALの研究成果を広く社会に還元するために、サイバーダイン株式会社を設立する。社名は、HALの基礎原理を構築するための新学術領域「Cybernics」(サイバニクス)と力を意味する「Dyne」を合わせて命名された。筑波大学内で開催された同社の設立記者会見が、HALの実用化に向けての第一歩となる。

 国立大学発のベンチャー企業の設立、しかもこれまでにないロボット技術の実用化という話題性から、多くの報道陣が集まり新聞やテレビで取り上げられた。その反響は大きく、日本のみならず海外からも「HALを使いたい」「HALはいつ発売されるのか」といった問い合わせが数多く寄せられた。しかし、実際に使ってもらうには、解決しなければならない課題がいくつか残っていた。

 そんななか「絶対に以前のように普通に歩けるようになりたい。ぜひHALを使わせてほしい」と麻痺の残ったふらつく字でつづった切実な手紙が届く。仮にSさんとしておこう。

 Sさんは製薬会社の辣腕(らつわん)の営業マンとして鳴らした人だったが、三年前に交通事故にあい脊髄を損傷し、下半身が不自由になった。左足に麻痺が残り、左足を引きずるようにして動かす。転倒すると、自力で立ち上がるのはむずかしい。そのためゆっくりとした歩行しかできないが、会社勤めをやめるわけにはいかず、電車が込み合う時間を避けて毎朝早朝六時に通勤していた。

HAL FITでのロボットスーツHALを用いてのトレーニング風景。
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HAL FITでのロボットスーツHALを用いてのトレーニング風景。
HALについての専門研修を受けた、理学療法士、専門アシストが利用者の個別の体調、要望に応じて対応している。(写真:CYBERDYNE Inc.)