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山口 やればできるはずです。実は、「アベノミクス」の「第3の矢」の一環として、日本の起業率を現在の2倍に上げたいとして、ベンチャー企業育成のために昨年度1800億円の国家予算が準備されました。そしてその800億円が科学技術振興機構に、1000億円が東京大学、京都大学、大阪大学、東北大学に投じられたのです。日本政府は、大学教授や研究者がベンチャー企業を起業し、科学をイノベーションに転ずることを期待しています。

――それは期待が持てますね。

山口 けれど、その方法が全くなっていません。成功した米国版SBIRと同じやり方をすれば良いのに、結局はそうならずに、大学でベンチャーキャピタル会社を立ち上げ、その会社が投資をするという仕組みに落ち着きました。

 ところがそのベンチャーキャピタル会社に就任する経営陣は、公募で選ばれた人でないばかりか、自分で技術ベンチャーを興したり、リスク・チャレンジをしたりしたことが全くない人たちだから、イノベーションに対する「目利き力」はないし、多段階の「スター誕生」選抜制度を実施する予定も今のところない。エンジェル投資とは、命がけでそのベンチャー企業を目利きし成功するまで見守る胆力が必要です。

 しかも応募できるベンチャー企業は、過去3年間赤字を出してない企業というハードルが加わる可能性が高い。こうなると、科学者をイノベーターにすることを目指した米国版SBIRとは、似ても似つかぬ制度になります。

――ベンチャー企業では結果が出るまでに5年はかかるでしょうから、それまでに国税を自分の俸給として受け取ってから去って行くモラルハザードが必ず起きますね。

山口 残念ながら、その通りです。国がエンジェル投資家になる制度においては、それを遂行する人には、公平無私の高い志が求められます。ただし、この制度はまだ固まっていませんから、この記事を読んでいただいている方々を中核にして、どのような制度設計にすれば、この1800億円を今までのようにドブに捨てることなく、日本の新産業を生み出す契機にできるのか、ぜひとも議論してほしいと思います。

山口栄一(やまぐち・えいいち)
京都大学大学院総合生存学館(思修館)教授。1955年福岡市生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修士課程修了、理学博士。米ノートルダム大学客員研究員、NTT基礎研究所主幹研究員、フランスIMRA Europe招聘研究員、経団連21世紀政策研究所研究主幹、同志社大学大学院教授、英ケンブリッジ大学クレアホール客員フェローなどを経て、2014年から現職。

(この項、終わり)