ISOとJISには、電気品である抵抗器の抵抗値やキャパシターの静電容量に適用する等比数列の「好適数列表」もあった。そこで、標準数(等比数列)、5進等差数列(等差数列)、好適数列(等比数列)の数値表をまとめて「モジュール数」と呼ぶことにし、「モジュール数の適用表」を作成した。
部品をモジュール化するためには、初めに部品諸元を決定する性能やレイアウト寸法などの設計パラメータをモジュール化する必要があるので、それらには標準数を適用する。さらに、部品の径、面積、突起寸法のような独立寸法にも標準数を適用し、物と物が組み合わさって全体の寸法が決まる組立寸法には互換性を保証するために5進等差数列を適用することにした。私は、モジュール化やモジュラーデザインに関する書籍を日本だけではなく英語圏でも調べたが、この「モジュール数の適用表」を作成して公表したのは世界で初めてだと思っている。
私は、マツダの設計者1500人を3回にわたって講堂に集めて毎回約2時間「モジュール数とその使い方」を教え、資格認定をした。受講者の感想に「大学時代に標準数を使えと教授に教えられたが、会社に入ったら誰も使っていなかった。今回、モジュール数の話を聞けたのは有意義だった」との一文があり嬉しかった。当時、私の教育を受けた人は人事部から「モジュール数教育修得」というキャリアが記録されているはずだが、現在、マツダの設計者はモジュール数を使っているかどうかが気に掛かる。
前出の江守忠哉氏は日立製作所出身で、1954年に制定されたJIS Z 8601「標準数」の委員だった。江守氏は、1970~1990年代に日本の工業界に標準数を普及させるべく、『標準化と品質管理』や『日経メカニカル』などに標準数について数多くの記事を投稿してきた。だが、現代の日本において標準数は、電動モーター、工作機械、クレーンといった一部の業界標準に使われているだけにすぎない。私が現在あちこちの企業で確認しても、標準数の存在を知っていて日常の設計で活用している設計者は皆無に近い。その理由は、私が突き当たった2つの問題について明快な答えを準備していなかったからだと思われる。モジュール化を使命としていた私だから2つの問題を突破できたが、一般の人は突破できず、モジュール数を使うことを諦めるだろう。
<エンジンルーム・レイアウト標準化活動>
シャシー設計部が以前、ブレーキ・マスターシリンダーをモジュール化したというので担当者にヒアリングした。ブレーキ・マスターシリンダーをエンジンルームのどこに取り付けても構成部品のどれかが使えるように、ブレーキ・オイルタンクを左右10mmずつオフセットしたり、ボディーのオイル吐出方向を90°ごとに設定したりして、ボディーアセンブリーを3552種類、タンクアセンブリーを110種類、トータルで3662種類準備した。ブレーキ・マスターシリンダーとしてのアセンブリーは、実に19万7520種類である。しかし、金型は計129種類なので、新モデルごとに金型を起こしていた時代に比べたら、部品メーカーの製造部門にとっては大変ありがたい標準化だった。