ルネサス エレクトロニクスが、倒産の危機にあった状態を脱し、同社の業績は回復しつつある。そして、同社は、期的な生き残り戦略を考えるべきフェーズに入ったとし、次に着手すべき施策の視点として、「新事業の育成」と「粗利率の改善」の2つを挙げた(日経テクノロジーオンライン関連記事)。今回のSCR大喜利では、「ルネサスの改革第2幕を考える」と題し、作田会長が語る今後の同社の方向性を客観的に検証していただいた。今回の回答者は微細加工研究所の湯之上隆氏である。
微細加工研究所 所長

【質問1の回答】その前にやるべきことがある
1993年にCEOに就任して経営破綻の危機にあったIBMを復活させたルイス・ガースナー氏は、『巨象も踊る』(日本経済新聞社)の中で、当時のIBMは、「社員は打ちのめされ、傷つき、混乱していた。しかし、会社への愛着と正しい行動を取ろうという気概はあった」と述べている。「社員は打ちのめされ、傷つき、混乱していた」という状況は、作田氏が会長に就任した当時のルネサスとよく似ている。問題は、ルネサスの社員に、「会社への愛着と正しい行動を取ろうという気概」があるかどうかということだ。
ルネサス関連労働者懇談会(通称「ルネサス懇」)が、作田会長の新経営陣が策定した変革プランに対して、ルネサス社員がどのように感じているかをアンケート調査し、結果を公開している(ルネサス懇、「変革プランに関するアンケート集計結果」、2014年5月24日)。それによれば、変革プランによって、ルネサスは「どちらかと言えば衰退する」および「衰退する」と回答した社員が64%を占めた(図1)。また、赤尾泰前社長の100日プロジェクト時代の体制と比べて、作田会長の新経営陣はどうかと問うと、好感が持てない(69%)、期待できない(62%)、考え方が伝わらない(67%)、信頼できない(72%)という回答だった。
経営とは、人を介して事を為すことである。経営者は、指令を出すことはできても、すべての仕事を一人でできるわけではない。2万7000人いる社員たちに指令通りに働いてもらって、はじめて技術が開発され、製品がつくられ、それが販売され、売上が上がり、利益を計上できるのである。ところが、アンケート結果によれば、その2万7000人の社員たちの多くが、作田新体制を信じることができず、そっぽを向いている。
作田新体制が次にやらねばならないことは、破綻寸前となって落ちるところまで落ちてしまった社員の士気を鼓舞し、ルネサスの歩むべき道筋を指し示し、社員のベクトルを一つにすることであると考える。