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 「とにかく、とことん学ぼう」

 松下電器産業の創業者である松下幸之助さんは戦後、我々社員の前で盛んにこう言っていた。幸之助さんの経営手法を今風の言葉で言えば、「キャッチアップモデル」である。先行する企業が開発した技術の種を後追いで学び、自分のものにしてしまう。当時は、こうした言葉はなかったが、戦後の混乱期には先行者に学ぶことこそが松下電器が生きていく道だと幸之助さんは判断した。だから「マネシタ電器」と揶揄(やゆ)されながらもキャッチアップに徹する姿勢を決して崩さなかったのである。

 もちろん、これは松下電器に限った話ではない。海外からの技術移転によって成長してきた日本の製造業は多かれ少なかれ、ほとんどが「マネシタ」だったのだ。その中でも模倣の徹底ぶりで抜きん出ていたのが、戦後の松下電器だった。それが幸之助さんの経営方針であり、松下電器が日本を代表する世界企業に育った理由である。

 ここ数年、「キャッチアップの時代は終わった」という意見が国内で目立つようになった。「アジアの企業からキャッチアップを受ける立場になったのだから、常に先行者としてイノベーションを起こしていかなければならない」という意気込みは理解できる。だが、例えば国内のIT業界に世界で通用する企業はあるのか。バイオではどうか。情報化社会の中で次の時代を作るビジョンは見えているのか。実はまだまだ学ぶべきことは多く、多くのビジネスはキャッチアップすべきフェーズにある。

 だから、「キャッチアップの終焉(しゅうえん)」を語る前に、まずは「キャッチアップ自体がきちんとできているのか」と、自らに問い掛けてみた方がいい。実態はイノベーションどころかキャッチアップすらまともにできていない企業が目立ちはしないか。「先行」「後発」どっち付かずで、中途半端だから、結局どちらもダメになる。そういうケースが実は多いように見える。

 先行者の「まね」に徹することは、安易なことのように思うかもしれない。だが実際は、先行者であり続けることと同じくらいに経営者の発想力が問われる非常に高度な手法である。冒頭で紹介した幸之助さんは、世界に類を見ない「まねに徹する」というテーゼを自らの経験から見出し、それを企業経営に持ち込んで徹底して実践した。それは「経営の神様」と呼ばれた彼にしかできないほど経営力が必要なことなのである。