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うまくいかなかったときの牽制球

イラスト:ニシハラダイタロウ
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 その空気を察してか、Aさんは弱気ともいえるホンネを私に明かした。曰く「私は、この講座を受けても、部長ほどアイデアが出るようになるとは思えません」と、最初から白旗を上げてしまうのである。さらに立て続けに、「部長は、『とにかく楽しんでこい。そして人脈を作ればよい』と言ってくれましたが、そう簡単にはいきませんよね」と、これもうまくいかないときの牽制(けんせい)球を投げている。

 Aさんの気持ち、私には痛いほど分かる。Aさんはかなり律儀な性格である。何事にもしっかりと取り組み、妥協せずに真正面から向かうタイプの人である。だから、ビズラボに来て困ったに違いない。のっけからノーと言わないとか、責任のない開発とか、大いに戸惑ったことだろう。生産現場の開発で、細かいところをチェックするのが仕事だと思っていたのに、ここではノーと言わずに何でもあり。会社を背負って開発するのが当たり前だと思っていたのに、無責任でいいといわれる。それはそれは、考え込んだに違いない。

 しかし、それを承知で部長は送り出したのである。ある意味、Aさんを送り出したのは、この部長にとって賭けなのだ。

 部長は、この会社を変えたいのである。今は何とかなっていても、そのうち業界の風向きが変わったら、困ることだろう。だから新たな開発を必要としており、そのためには異業種企業との連携が不可欠で、その人脈が欲しいのである。

 繰り返すが、今回の人選は部長にとって賭けなのだ。もし、Aさんが引っ込み思案のまま、あるいは他の受講者と相いれずに、何のご縁も人脈も築けずに戻ったら、部長には厳しい目が向けられるはずだ。

 その場合、大学の後輩、しかも都会から来た新人をえこひいきしたと非難されるのは見えている。いくら、部長が社長から期待されているといっても、人選を間違ったというそしりは免れないだろう。