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 その経緯について述べる前に、グラム陰性菌の細胞壁外膜の表層を構成している成分の一つであるエンドトキシンなる毒素について知っておく必要があるだろう。

 インターネットで検索すると、関係する記述が数多く出てくるが、多くは化学や医学の関係の専門用語が使われていてわかりにくい。そのなかで最もわかりやすく解説されているのは、大阪大学が総合学術博物館の設立を記念して開催した「いま阪大で何が? ――人間・地球・物質」と題する展示のなかでの説明だ。

 そのなかの「人間」の部において「毒にも薬にもなる自然界の化合物――有機化学で探るその正体とはたらき」というパネルで簡明に解説されている。その部分を引用させてもらおう。

ヒトのいのちを護っていたバクテリアの毒素 エンドトキシン

 エンドトキシン(日本語では「内毒素」)とは、バクテリアの細胞から外に放出されない毒素という意味で、食中毒の原因となる毒素とは違って、少しぐらい加熱しても毒性を失わないのが特徴です。この毒素は病原菌に限らず、大腸菌などの身近なバクテリアにも共通のもので、動物に発熱や死をもたらす一方、うまく使えば病原菌や癌に対する動物の抵抗力を強めることが明らかになり、医療に利用する試みも世界中で行われています。

 私たちはその活性本体である「リピドA」の化学構造を明らかにし、これを化学的に合成してエンドトキシンの全ての活性を人工的に再現することに成功しました。リピドAは、バクテリアの生存に不可欠な細胞外膜の成分である一方、動物が生まれながらに持っている「自然免疫」という防御機構を始動させる鍵化合物だったのです。自然免疫を始動させる機構や医薬への応用が活発に研究されています。

 このなかで「うまく使えば病原菌や癌に対する動物の抵抗力を強める」と記されているが、いち早くその点に着目し、エンドトキシンの有効活用化に挑戦したのが、谷や花澤らである。