位置づけが曖昧なIGZO、出遅れたインセル
液晶や半導体の事業を成功させるには一般に、世界市場で30%や40%といった大きなシェアを持つ必要がある。シャープは、中小型液晶事業でこうした支配的な立場を確立しようと、供給体制の構築を急いできた。亀山第2工場(第8世代)では、テレビ用の大型液晶パネルの生産から、スマホ/タブレット用の中小型液晶パネルの生産への切り替えを進めてきた。2015年下期には、中国Nanjing China Electronics Panda Group社(南京中電熊猫)が中国・南京に稼働させる第8世代工場の生産能力の半分(3万枚/月)を、シャープが引き受ける計画を立てている。
これらの第8世代工場では、1枚のガラス基板から約500枚ものスマホ用液晶パネルを生産できる。ところが、パネルの供給能力が激増する一方で、需要開拓は思うように進んでいない。上述のように小米向けの出荷量は増えず、また他の中国スマホメーカーとの商談も思惑通りには進んでいないもようだ。
タブレット需要の当てが外れた影響も大きいが、シャープのスマホ向けパネル戦略にも課題がある。まず、シャープの主力製品であるIGZOパネルの位置付けが曖昧なことだ。現状では、必ずしも競合技術との差異化が図れていない。昨年、小米がシャープ製IGZOパネルを大量採用したことで、IGZO技術の優位性がユーザーに受け入れられたと解釈する向きがあった。しかし、小米がシャープ以外からのパネル調達を増やしている状況を見ると、「IGZO技術が優位だからシャープ製パネルが採用された」というより、「シャープ製パネルを採用したところ、そこにはIGZO技術が使われていた」というのが実態といえるだろう。
また、競合他社に対して後塵を拝する場面が目立ってきた。象徴的なのがインセルへの対応だ。スマホ向けでは今後、タッチ機能を内蔵したインセルパネルの需要が増えるとみられているが、シャープは米Apple社の方針に基づいて製造しているiPhone向けパネルを除いてインセルに対応できていない。
インセルパネルには、薄型・軽量で、さらに液晶とタッチパネルをワンストップで調達できる利点がある。これまではコストに課題があったが、ここに来て「タッチパネルを外付けする従来方式に対して、コストの差はほとんどなくなってきた」(先述のアナリスト)。インセル対応で後れを取るシャープを尻目に、ジャパンディスプレイは低温多結晶Si(LTPS)によるインセルパネル「Pixel Eyes」で攻勢をかけている。