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日本が勝っているはずが…

 VD事業部では、MD式ベンチマーキングをPC用ディスプレーとプラズマテレビで実施することになった。MD式ベンチマーキングとは、自社製品と競合企業の製品について複数機種を対象に、総部品点数(複数機種での部品点数の単純合算)、総部品種類数(複数機種での部品種類数)、部品共用化率(複数機種にわたって共用している部品の種類数を総部品種類数で割った値)、MD指数(総部品種類数を調査に用いた機種数で割った値、すなわち1機種当たりの部品種類数、小さい方が良い)を比較する方法である。PC用ディスプレーは日本のメーカーから6機種、プラズマテレビは日本および韓国のメーカーからそれぞれ2機種を買い、派遣社員を使って1週間で分解してトレーサビリティーを確保できるように機種および部品種類ごとに部品を分類し、次の1週間でそれまでに確立していた設計部品構成単位で結果を分析した。MD式ベンチマーキングは、この時が“世界初演”である。

 彼らが「どんな結果になったと思うか?」と聞いてきたので、内心では日本のメーカーが勝っているだろうと思いつつ、「予想屋ではないからそんなことは分からん」と言ったら、勝ち誇った顔をして、サムスン電子のPC用ディスプレーとプラズマテレビのいずれも他社製品と比べて総部品点数、部品共用化率、MD指数が大幅に勝っている結果を示した。彼らは日本の製品に対して、「なぜこの部品を共通にしていないのか?」とか「ここには高価な高級部品を使っているが、他のところで汎用部品を使っている。製品全体の品質は汎用部品の品質で決まるのだから、部分的に高級部品を使っても意味がない」といった感想を述べていた。

 VD事業部のMD式ベンチマーキングの結果には他の事業部も興味津々で、問い合わせが相次いだ。VD事業部のTFメンバーは得意げに結果をしゃべり出したら、そのうちユン・ブグン氏から箝口令(かんこうれい)が敷かれた。ユン・ブグン氏にとっても予想外の結果だったので、他の事業部から「こんなことであれば、MDのコンサルティングを受ける必要がなかったのではないか」と言われることを恐れたようだ。しかし、さらに分析を進めたら、PC用ディスプレーのスタンド部分が負けていたので、「スタンドも勝つように工夫せよ」とユン・ブグン氏が命令した。TFメンバーは工夫して、スタンドの種類を多様化しつつ、構成部品の種類を少数化する新たな構造を開発したので、私は感心してうなってしまった。

 MD式ベンチマーキングの現物を私が見たところ、サムスン電子の共通化が優れていたというよりも、日本のメーカーが共通化に無頓着だといえた。日本の製品は、モジュラー型である電気・電子製品を“擦り合わせ”で設計したとしかいいようがなかった。擦り合わせ設計とは、「個別製品の性能や品質を最高にすべく部品間の関係を微調整して設計すること」であり、そのために部分的に高級部品を採用したり、他の製品との共通化を考慮していなかったりする。日本では、「匠」「職人芸」「一芸」といった言葉が美化されるように、一つ事にのめり込む傾向が強く、その半面として、大きく眺めて全体最適設計する能力が弱い。擦り合わせ設計は高性能・高品質を実現できるという利点があるが、これからのグローバル時代に日本の電機メーカーの擦り合わせ設計“一本やり”は最大の弱点になると強く思った。