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 好調な受注を続けるトヨタ自動車の燃料電池車(FCV)「MIRAI(ミライ)」。しかし、その中核技術である燃料電池スタックの開発と量産はスムーズにはいかなかった。量産直前には燃料電池スタックに想定外の問題が発生。一時は、発売延期も覚悟した。開発と量産への道のりを、MIRAIの開発責任者の田中義和氏に聞いた。

同じ材料でも出力が一定しない

――燃料電池は、電気化学反応でパワーを発生させます。機械が主役の内燃機関とは大きく異なります。開発する上でどんな点が難しいのでしょうか。

田中: 例えば、材料メーカーから燃料電池3つ分の同じスペックの材料を購入したとします。仮に材料A、材料B、材料Cと呼びましょう。3つの材料は同じスペックなので、燃料電池としても当然同じ性能が出るはずです。

 ところが、Aで造った燃料電池はすごいパワーが出て劣化もしない。Bはパワーが出ない上に激しく劣化する。Cは、AとBその中間ぐらいの性質を示す――。こんなことが実際に起きました。ですから、それぞれの特性を解析しながら何が原因でこうした違いが起きているのかを突き止めなければならない。機械系のものだと、例えば、クラックが発生したときにはその界面を見れば原因が分かります。機械屋としての経験と、それに基づくノウハウを持っているからです。しかし、燃料電池だと見当も付かない。材料メーカーに聞いても、初めての用途なので分からない。原因を探るところから始めないといけないわけです。

図1◎酸素(空気)の流路を立体化して反応面積を拡大
図1◎酸素(空気)の流路を立体化して反応面積を拡大
流路を立体化した「3Dファインメッシュ流路」を開発し、酸素が触媒層に拡散しやすいようにして反応面積を拡大した。

田中: 加えて、開発テーマが多いこと。小型スタックで大出力を得たいので、反応効率を可能な限り高めたい。そのため、反応面積を増やせる「3Dファインメッシュ流路」を開発しました(図1)。高価な白金の使用量を削減する技術も必須です。発電反応では水が発生するので、-30℃で動作させようとすれば、水を凍らせない技術も必要になる。こうしたさまざまな技術開発の結果、2008年に開発したものに比べて体積エネルギー密度を2.2倍に高めた出力114kWの新型燃料電池スタックが出来上がったのです(表)。

表◎燃料電池の仕様比較
表◎燃料電池の仕様比較
出力を高めながら、大幅な小型軽量化を実現した。新型燃料電池スタックの性能向上とコスト削減を目指した要素技術は、現時点で明らかになっているものだけでも、少なくとも10種類ある。具体的には、 [1]触媒活性が1.8倍の白金/コバルト合金触媒の開発(白金の使用量を1/3に削減)、 [2]セパレーターをステンレス鋼からチタン合金に変更するとともに薄肉化、 [3]加湿レス方式(内部循環方式)の確立、 [4]「3Dファインメッシュ流路」の開発、 [5]電解質膜の厚さを1/3に削減、 [6]セパレーターの表面処理を貴金属から安価なカーボン系に変更、 [7]ガス拡散層の高性能化、 [8]大容量の昇圧コンバーターの開発、 [9]発生する水の排出性能の向上、 [10]急速暖気機能の追加、である。

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